倒産列伝002~あれ?決算書違うくない?③

倒産列伝

 営業マンから「あの取引先が今日突然、事務所もお店も閉じてしまいましたー!!」「なにー?」大慌てで現地に営業マンらが向かいました。そこには私に連絡をくれたリース会社の方々をはじめ、同業他社やその他銀行などの債権者も多く集まっていたそうです。

 とはいえ、居なくなってしまったら勝負あり、無理やり商品を引き上げようにもカギをこじ開けたら窃盗だし、サラリーマンで家族もいて将来のある営業マン達に犯罪をさせてまで回収させることは出来ないので、ここは営業側に「撤収が最善」と助言して事を終えました。

 後日、その取引先は地元の地裁に破産を申立て、同日開始決定となりました。

 決算書の嘘について声高に叫んでいる債権者はいませんでした。みんながみんな嘘の決算書を受け取ったのかわかりませんが、見抜けなかった債権者は間抜けな人と言われるのが嫌だったのでしょう。それにしても詐欺で訴えられてもおかしくない話ですが、あとで情報を集めたところ資金繰りはもともと苦しく社長さんが経理責任者に決算書を改ざんさせたところ、どうあがいても良く見せる内容にならなかったので、まるごと変えてしまったら評判だけが先行してしまい引っ込みがつかなくなったとの事でした。

 では当社にはなぜ真実の決算書を提出してくれたのかと言うと簡単な理由で、長年付き合いが長く同業でもあり、すぐに見抜かれるだろうから・・・とのことでした。

 よく変わる営業担当だけではなく、長い付き合いのベテランに行ってもらった事や普段から営業も取引先の店舗へ足を使って見ていた事が相手へのけん制となり功を奏しました。また私、与信管理者としては、金融機関系リース会社からの「お勧めだ」と言われてもいったん懐疑的にみて保留しながらも最初の懸念から早く真実を知るべく関係する社内のいろんな方に協力を仰いだ点が良かったと思います。

 ちなみに不良債権は発生しましたが、枠の増枠をせずに様子を見ていたため、少額の消耗品債権だけで済み、予めその枠一杯を取引信用保険でカバーしていたので損害を被る事はありませんでした。それにしてもリース会社さんの人達は怒られたでしょうね。社会的に地位もプライドもあるのでギャンギャン喚く分けにもいかず、気の毒に思いました。

【与信管理実務者の今回まとめ】

●金融機関系リース会社のお薦めだからと言っても、鵜吞みにせず自分で確認する姿勢をとった。

●営業が絶えず取引先の動態を見る習慣をつけており、取引先が嘘をつけない環境ができていた。

●営業担当だけでなく旧知の親しい人員でも対応できる体制で、かえって牽制にもなった。

【ご参考】

私が、過去に取引先から決算書を頂いたときに言われた言葉。

「どの決算書が良い?」「3種類ほどあるけど、どれもってく?」「一番いいの持ってって良いよ」

「さっき渡した決算書だけど、修正液で塗りつぶしてるところは送り返してくれない?」

「調査会社に掲載されたのと違う?あー、じゃあ本物送ってしまいましたねー。」

本音を言って頂けるのは構いませんが、言われた方はどうしていいんだか困りますね。

(おわり)