社長さんは、銀行にしょっちゅう顔を出して融資担当者だけではなく支店長レベルの方々にもマメに挨拶をしたり、決算報告を行っていました。業績についても問題ない実績を出していたので、このまま成長路線を歩めば上場も夢ではないと頑張っていたのだと思います。
与信枠については、私もその時は増額に応じました。システムの発した不安部分については債権債務の立替期間が仮にタイトであっても銀行の融資意欲は問題なかったので、融資を受けたというエビデンスを元に与信枠を増枠するかたちで対応させて頂きました。
異変が起きたのはその数か月後です。倒産した取引先から代物弁済(営業する権利を弁済のカタに)させた店舗の収益が予想以上に悪く、収益上かなり追い詰められ毎月の資金繰に不安が出る状態になったと社長が相談してきました。先日「厳しくないですか?」と伺った事で、嘘ついてもしょうがないと真っ先に伝えてくれたのだと思います。
「しばらく通常の支払条件よりも長い手形をお願いしたい」との依頼、やはり卸売業がメインなので薄利である事から貸倒れ被害の影響は大きい、ましてや店舗事業は設備投資がかかるので、掛売分の債権を回収するまではキャッシュアウト(資金流出)だし、店舗の設備投資のためのキャッシュアウトで、なのにその店舗が赤字とあれば月またぎの繋ぐ資金が余計に必要になってくる。普段から資金繰りがギリギリアラームだった事を考えると、ピンチのやってくる速度はやばいほど早いはず。
私は再度、社長のもとに伺い意見してみました「銀行さんに相談されました?」「借入の弁済を一時繰延してもらう様に依頼してみたら如何でしょう?担保も提供してるんですよね?」と伝えたところ、「何言ってる?銀行に不義理などできないよ!!」「彼らには成長を支援してもらってきた恩もあるし、今までの信頼関係を無くしたくない」と強く言われたのでした。私はもう一度反論して「でも銀行さんにとっては我々の業界など小さいもの、きちんと現在の業績や今後の計画と当座のV字回復策を説明をすれば融資は止まっても弁済負担が減るのでかえってキャッシュフローに余裕が出ます。検討してくれるのではないでしょうか?」「デフォルト(債務不履行)を出してしまってからだと、彼らも振り上げたこぶしを下せなくなり、大変な事になりませんか?」
やはり昔の私の至らなかった時代のキャラが説得力を欠くのか、社長はしばらく無言でしたが「最後の砦は君達だよ」「同じ同業であり痛みもわかる、長年取引してきたし、最後の最後は君たちが頼りだ!!」「お互いに恩の貸し借りもあり、銀行に見放されたら君たちがいるよ!!」
「もちろん我々もその覚悟はあります、でもメーカーも会社ですし銀行の様な資本力はありませんし、厳しいガバナンス(統治)もあり、誰かの一存により“助けたいから”の人情だけで助けられる時代ではもうありません、貸倒必至で供給の支援をしても保全策が無ければ当社だって屋台骨に傷つくわけで、共倒れに成りかねない、今の段階では決裁を取るのは至難の業、責任を取れる人がいないのです」「ましてや真水(純キャッシュ)つまり当社がお金を融資をする事も考えたいですが、規定で禁じられており、到底できないのです」
結局、我々ができるのは支払日を延ばすか、手形の期日を延ばしたり回数を増やす、または手形が期日到来したら返却して新しい手形を振出して頂き、それと差替える(手形ジャンプ)事を受ける以外に手段はなく、また支払遅延扱い先になると支援の決裁が取れなくなるので、敢えて事前に重要な取引先を支援するために回収条件を延ばすという稟議を申請し決裁を受けました。その条件を承認した契約をした時点で、今度は対象となる取引については取引信用保険やファクタリングが効かなくなるので、担保を差出して頂くしか社内の反論を抑えられなくなる事は明白で、サラリーマンの無力さを感じる次第でした。
社長:「それならじゃあ、担保出すよ」
私 :「え?なにを担保に?」(④へつづく)