「某地方政令都市では、財界にも顔が利く有名な大物ですよ」
探偵の方が言われるには、判明した住所には住んでいないとの事でしたが、所属する組織名と役職名がバッチリとわかり、確かに実在するという情報を持ってきてくれました。どうやって情報収集するのかは彼らのノウハウだし、それ以上は聞きませんが、反社の「属性要件」という情報が満たされたので、社内共有は可能であろうと考え、関係者に社内招集をかけてみたのでした。
この「属性要件」の報告を私から聞いた事務方は「・・・って探偵が言ってるんでしょ?」「・・・と聞かれた、とあるけど?人聞きでいいの?」、なかなか腹落ちしないという困惑の表情で「判断できない」と言い出しました。でも「もし本物だったらこっちもヤバいんだよね?」「売上の責任は事業部にあるのだから事業部が負えば?」と投げやりな発言。長年、彼らの保身を利用してこんな事を繰返してきた私は、駆引きで勝った感もあり「では、私と事業部で先方の様子を見ながらフェードアウトして行く事で進めていきましょう」と仕切り、一歩進める形を演出し、いったん会議を収めたのでした。
次の課題として、これから行動を起こすにあたり「取引先の親会社のそのまた親会社の役員が、大物反社勢力の妻」という事に対して、反社チェックという危機管理の学術論になると、この要件は行動を起こすに正しいか正しくないかとか人道的な議論になるのかもしれません。例えば「Aさんのお爺さんが暴力団で、何もしていないその奥様まで逮捕していいのか?」はたまた「仲間はずれにしていいの?」なんてなる。誰が決める?そんなこと。という事で、やっぱりエビデンスが無いと、という事になり「被害に遭うのを待つしかないよね?」なパターンにはまる雰囲気になってしまうと思います。
普通、友人のお爺さんの奥さんに「あなた反社ですか?」と聞いたら「はあ?そんなわけない」になるに決まっていて、そのあと聞いた人が夜道で消され警察の捜査で自殺って事になる。海外では聞く話ですが、日本でも反社の妻は反社扱いして良いという学術的なご判断も伺った事はありましたが、これらを考えるそのものが、あんまり意味ないのかな。
そんなことを考えるともやもやが増してくる一方なので、実務ではやっぱり学術的な話は横において長年行ってきたやり方を採用するのが良く、それは「社内では通常に行われる与信判断」として、「対取引先には商売上ミスマッチとなってきた」事にして折り合いをつけながら距離を取っていく演出が一番良いのかなと思うわけです。という事でそれで進める方針にしたのでした。
まずその取引先の商業登記上の履歴を確認しましたところ、その会社も上場していましたが、5年前に上場親会社B社が経営不振となり倒産再生の一環で別の上場企業C社に売却されました。ところが一年足らずでまたC社が株を手放し転売され、今回の親会社になったわけです。当時C社に関係するファンドよりセットで着いて来られた優秀な経歴を持つ若い社長さんがいたのですが(おそらく上場企業の社長になれるという事でついてきたのでしょう)・・・「わずか数ヶ月で辞めちゃったんです」
与信管理の実務者なら「ピーン」ときます。「気づいちゃったんだ」(④につづく)