倒産列伝004~悪の忍び寄りと与信管理④

倒産列伝

 今までの親会社はいずれも有名上場企業(1社目は倒産しましたが)だったのが、3社目になってIT系の非上場消耗品卸通信販売業になったのですが、彼は買収後に行われたミーティングとかで雰囲気分かったんでしょうね。

 買収させた方(前の親会社)もグルだったのでは?と、また疑ってしまいます。まあ、考えだしたらきりがないので、とにかく集中集中。まずは、営業担当から今まで取組んでいた提携BPOを縮小したいと打診させ、メールと郵送の通知で正式にお伝えしました。

 最初のうちは、彼ら自身は非上場企業に買収されたとはいえ上場企業だったので、紳士的になにも言わず受入れる方向との態度で接してきたのですが、数日たって突然「業況芳しくないので提携見直しを延期してもらえないか?」と言い出しました。営業としては杓子定規に「もう会社が決めた事だから」と取合おうとしなかったのですが、徐々にしつこくなってきたので、方針変更に関わった経理部門にも訳を話して一芝居打ってもらうべく同席してもらい「予算低減策の内製化」という事で一旦引上げてもらいました。

 それでもいろいろ見直しのプレッシャーをかけてくるので、与信の切り口から彼らに諦めを誘えないかと月次決算書の提出を求めてみたところ、やはり普通に出してきたのですが、中身を見ますと買収後を境にキャッシュフローの激減、経常収支比率の低下をみる事になり「尋常ではない何かが起きた」事を示す指標があちこちに見て取れたのでした。「親会社から急改善を求められていますか?」と伺ったら先方の部長さんが、何とも言えない表情でこちらに助けを求める様な真っ赤な目で「とにかくお願いします」とだけ言いました。だいたい察するけど、今回だけは譲れない・・・、想像するに買収後の彼らの目の前にはおそらく親会社の役員と言える方は現れず怖い人が出てきて一方的にプレッシャーをかけてくる展開になったのではないでしょうか。彼らには会社法とかルール関係ないですし。しかも知らないうちに会社の現預金は空っぽに・・・。

 その会社は依然、当社側に提携復活をお願いしてくるのでこちらも平身低頭「本当に申し訳ございません」と、会社の方針変更のためどうしても内製化を図らざるを得ない旨を詫び、お引き取り頂いたのでした。そうこうしていたら、親会社の役員から突然見開きのとても丁重な楷書体の案内状が届き「新任のご挨拶に伺いたい」と書いてありました。

 「やばいね、来るね」「当社も赤字なので、費用見直しの事務所引っ越し準備があるので延期してもらおう」という事にして時間を稼ぎその間、念のため挨拶状の主を探偵に調べてもらいましたら「大物の片腕的存在」と言う事がわかりました。ただし反社リストにも犯罪歴も無し。でも知る人ぞ知る切れ者との事でした。「最近高学歴な反社増えてない?」

 「もう、ぜーったい会わない様にしよう!!」と現場の皆はスクラムを組む思いで不思議な一体感が生まれ、「やはり会社のリスクは皆で排除しなきゃ」「縦割りではできない」私にそう思わせるのでした。

 ここから先は根競べ、あの手この手ノラリクラリで逃げ回っていたら突然の破産申立て。聞けば先方社内の役員の誰かが申立てたとの事でした(準自己破産)。先方もこちらが気付いている事はわかってきたのでしょう。こうなってくるとターゲットを追込めなければ彼らは時間もないので、撤退戦術を始める時期だと悟ったのだと思います。同社の破産で不良債権をつかまされた企業はたくさんいたと思います。上場だからとか、昔から信頼してるからという理由で取引してしまったのでしょう。

 反社にしてみれば目標達成したのか、いわゆる店じまいだったのでしょう。

 その後、社員の方々はどうなったのか知りません。知り様にも関われません。結局この悲惨な結末を招いたのは誰なんでしょう。当社もいい迷惑だったと思いますが、取った対応はベストでは無いものの最善の策だったと思います。

 まったくの想像ですが2番目の親会社から乗り換える時に自分が社長になれると思い、甘い言葉に乗っかったものの自分はすぐ辞めた元社長さんや、2番目の親会社に反社の忍び寄りを回避する能力があったら社員の方々の不幸を招かなかったかもしれません。気づかなかったで済むのでしょうか?「悪いのは反社」あたりまえですが、でもそうなる前にエビデンスにこだわったり、「よくわからなかったから」とか「上が言うことだから仕方ないでしょう」とかで中途半端に進めてしまう事も、反社の思うつぼに嵌り、それが後々甚大な被害を招く事になってくるのかと思うのです。

 【与信管理実務者の今回まとめ】

・企業を狙う経済系反社は、まるで幽霊みたいなもの。自らは実在するか判り難くして、いろいろなものに化けて忍び寄ってくる。

・企業を狙う反社は曖昧な情報による環境を作り出す事でターゲットの相互不信を招くのが大得意。エビデンス依存の会社や人々は特に思うつぼの大好物。

・上場していたり、社会的地位があろうが、いかなるハロー効果があろうが、反社(と関わっている企業)との関りがわかった場合は一切関係を持つべきではない。何が何でもダメというのがベスト。かっこつけたり強がったり、「話を聞いてみよう」も絶対ダメ。好きだから自ら近寄るのは大論外(だいたい嵌められる人はそういうのに憧れていて格好も真似てます。だいたい社に最低一人はいらっしゃいますね)。

・こちらが警戒している事を常に発信してれば、反社自身“堅気”には近寄ってこない。

・排除するときは全社関係者一丸となって対応するべき。隠さないこと。

最後に

 エビデンス依存と言えば、私も過去に困った経験がありました。それは極めて反社ではないかと疑わしい相手から新規開設の依頼を受けたので、わざと決算書の開示を求めて諦めるのを待ったのですが、必要書類すべてビシーッと完璧にご提出してきてくれました。しかも内容は優良も優良!!「どうしよう(泣)」「断ったらこっちが悪いと難癖つけてきちゃうよなぁ」

 いつか機会あれば、このエピソードもブログに記せればと思います。

(おわり)