倒産列伝005~割に合わないんです①

倒産列伝

 コリアンタウンど真ん中の喫茶店。私と営業マン、そして支払い遅延を繰り返し、ついに払わなくなった小さくも老舗の取引先社長。・・・無言のにらみ合いが続いていました。

 私がグループ初めての与信管理専門ユニット(課)を創設する準備を始めた頃の話です。中堅の後輩営業マンから前述の件で助けを求められたのですが、中堅と言っても当時は私もほぼ変わらぬ年齢だったものの一応先輩だし元上司でもあったという事で、これから与信管理の実務者を名乗っていこうとするからには「逃げてはいられない」と同行したのでした。

 社長が急に「お前ら消費者金融かー⁉(怒)」「このビルから飛び降りろとでもいうのかー⁉」周りのコーヒーを飲んでいるお客さん達が、最近テレビのニュースとかで悪質な貸金業者が「ビルから飛び降りろー」とか債務者に電話で恫喝しているシーンがあり回収の仕方が社会問題にされていたので、社長がそっくりそのまま叫んだものだから、みんなびっくりして私たちの方を見たのでした。

 「どうかしましたか?」長身で場慣れした風な支配人らしきウェイターが寄ってきて言いました。

私 :「な、なにも問題ありませんから・・・!!」「社長!!叫んでも何も解決しませんよっ」

社長:「無いものは無いんだよっ」

私 :「その無い理由を教えて頂けませんか?」

後輩:「社チョー!!僕を騙したんですねー!!」

 どうしちゃったのか突然、後輩も叫び出し。またもや「どうしちゃったんですか?」とさっきのウェイターさんがやってきて「事情は分かりませんけど別室を用意しましょうか?」と言われましたが、この社長の行きつけのお店なので先方のペースに乗せられる可能性もあり「いや、静かにすぐ済ませますので」とその場のテーブルで話合う事を引き続きお願いしましたが「なんでお前が叫び出すのよ」と、ほんと後輩の頭を小突きたくなる心境を抑えて続けたのでした。

 「社長、我々もサラリーマンですし、滞納金数十万円でこの窓から飛降りろと言うことはありません。でも会社には、社長が払えない理由を合理的、客観的な視点から報告する義務があり、教えて欲しいのです」「理由によっては、当社も遅延を容認させて頂き無理のない返済計画を逆にご提案し決裁を取るつもりです」

 当社の与信枠は、業務効率をよくするため比較的少額ならば下限枠を定め、その枠内のリスク判断は営業マンの裁量に任せ、その分の債権は一括無記名式の取引信用保険で貸倒リスクをカバーする体制をとっておりました。いわゆる「濃淡管理」と言われるものです。なので、私の立場で言えば「そもそも想定の範囲内」であり、貸倒れても何ら会社は問題にはならないレベルでした。が、営業マンはそうはいきません。「どうせ少額だから」などと与信マインドが欠落してはいけませんので少額でも不良化させると自身の上司に怒られるのでした。営業成績が振るわない営業マンはボーナス査定にも響くでしょうから必死です。

 「僕は社長を信じてたんですよ?」「商談の時、払えますか?って私、聞きましたよね?」「あれは嘘だったんですか?」大の男(主役である後輩営業マン)が泣いて訴えかけます(私、苦笑)。

社長:「無いものは無い!!約束の事は知らん!!」

後輩:「僕な何だったんですか・・・?」

 まあこうなると、我が国は法治国家だし、我々は上場企業だし、売った私達がバカだったとなります。暴力団など法の外の連中は何するか知りませんが、私どもはそうもいきません。弁護士にお願いしても少額債権ですから費用倒れになる事も多く、相手が破産などの法的整理をしなければ貸倒債権は損金処理もできません。お金とモラルの無い人には勝てないのです。営業マンは普段から、自分が一番取引先から信頼されているという自負を持ちながら仕事をしていますので、こう言うことがあると「自分は何だったのか?」と存在を否定され大いに傷つくのですが、かつて営業マンだった私も気持ちは痛いほどわかるのでした。

 「一通り調査させて頂きました」私は、後輩営業マンがかわいそうなのと取引先もせっかくのご縁で長年取引をしてきたわけですから、そのご縁を維持するために「冷静になってお聞きください。社長のご資産を担保にご提供頂けませんか?」ちょっと急でしたが、お願いしてみたのでした。(②へつづく)