倒産列伝005~割に合わないんです②

倒産列伝

社長:「俺には資産なんかないよ。」

私 :「まずは、財務諸表は作成されていますか?資金繰表もあればお願いします。」

社長:「恥ずかしながら、個人業なのでそういうのも作ったことはない。」

私 :「何らか試算表や帳簿があれば助かるのですが。」

社長:「いままでどんぶり勘定でやってきた、仕入先は皆今までも滞納を許し待ってくれた、そんなの作ったこともない。」

 まあ珍しくないので驚かないけど、この取引先の事情を会社へ説明するにもこれでは救おうに救えない、やはり取引をする前にお断りするか、事前に保全策を打つべきだったのでは?と思いました。

私 :「お前売る前に直近の状態を調べなかったのか?」

と後輩に耳打ちたところ「すみません、当て込んでいた大手の数字が思う様に受注とれず、困っていたところに、そのライバル店舗を持つこの社長から「買いたい」との申入れがあったんです」期待通りに買ってくれなかった大手への当てつけもあって迷わず受注に応じたそうでした。

私 :「その時与信しなかった?・・・、うちの部下たちにも相談しなかったのか?」

後輩:「えー、はい・・・。」

 営業マンの完全な与信管理の失敗でした。この社長は近隣の大手にお客を奪われ、市中の卸よりも高いはずのメーカーへ苦し紛れに連絡したところ、この後輩の営業マンがパクっと釣れたという事なのでした。

 「辛いな~」少額の遅延債権と言うのが最も回収がしんどいのです。特に1000万円未満の債権は経験上、特に苦労する事を知っていたので、私は「やだな~」「嵌っちゃったな~」と、後輩営業マンに着いてきた事に後悔すらしてしまいました。

私 :「では社長、私の方で表は用意します」「なので数字だけここで教えて頂きたくお願いできませんでしょうか?」

 こういう経営者は自発的な帳票の作成を促しても、なかなか提出してくれないので(逃げないうちに)今この場でざっくりでも教えて頂く方が良いのです。遅れるといたずらに利息損害金が嵩むだけだし、社長が契約している会計士や税理士の先生方は忙しいので後回しが多く、お金を払って欲しい我々自らがエスコートするかたちでエクセルなどで資金繰表を作ってあげて直近数ヶ月の実績と未来6ヶ月相当の月次資金繰をレクチャーと添削をしながら本音も引出すのが最善のやり方なのですが、でも我々にはまったく割に合わないのです。

 もちろんこちら側の営業もそういう表を作った事などありませんから結局、私で用意してあげるわけです。Wで割に合わないのです。普段の業務で忙しい部下に無理強いするわけにもいかないし。「仕方がない」いつか効率化を考えねばと思うのですが、こう言う取引先も大事だけど売るか売らないかの判断は不穏な噂が無ければ与信枠内の場合、営業担当にあるし・・・営業マンの判断力を鍛えるしかないのだろうなぁと思う次第でした。

 しかし、さんざんやりとりしたのですが、この社長さんは心開かず正直な数字を出してくれない。まったく進捗が悪い。コーヒーは冷め、周囲のお客さん達も3回転ぐらい入れ替わった感じで日も暮れてコリアンタウンのネオンが光り始めました。

 このままじゃ、いつまでかかるか分からないと思った私は「あらかじめ社長さんの所有資産は調べておきました。」(③へつづく)