あれから数回、銀行の人から「なんで、もの出さないの?」とか「与信枠を増やさないの?」と電話で聞かれましたが、「当社の定性評価の事情で100%の保全無しにはこれ以上増枠する事はありません!!」と生意気ながら突っぱねました。自社の開発や工場が一所懸命作った商品、「買いたいと言われたからとて、どんな先にも売るわけではない」というメーカーの意地を伝えたかったのですが、理解される事は少なかろうとは思うのですが。
それからあの会社は、コベナンツルール抵触などいろいろあって、銀行団に対し返済リスケを申入れた旨の情報が入りました。前述のとおり大半、無担保貸付だったので銀行は焦ったと思いますが時すでに遅し、気が付けば年商を上回る借入残となり、更に債務超過の有様となってしまいました。社長に対する銀行の風当たりは相当なものだったと思われますが、元来やんちゃな性格なので突然のリスケも確信的と思われるし私としては「ほら、言わんこっちゃない」「やっぱあの社長はそんな人だったのよ」なんて高みの見物で「この件は社内で事例解説の材料にすればいいだろう」と悠長に構えていたのですが、営業から「会いたい」とのアポイントがあった事を思い出し、嫌な予感がしたのでした。
営業側からも「このままでは、銀行たちから業界全体の信用を失ってしまう」とせがまれて「そんな事あるわけないでしょ?」と思いながらも顔を立ててお会いしたところ、社長と一緒に見慣れない坊主頭でスーツ姿の中肉中背の男性を一人連れてきました。名刺を頂戴すると弁護士だという。私は一見「ほんと?」と思いました。なぜなら上着はヨレヨレで、ワイシャツの襟や袖の隅も敗れているし、なんだかな~ってな感じのなんとも見栄えの冴えない先生でした。
だいたい、こんな先生は過去に何かあってヤクザの手先に成り下がって無理な事件を請負う債権整理屋の使いになっている「飲んだくれ先生」が多いという私の中で相場があり、今回もやんちゃな社長だからどうせ雇っちゃったのかな?と思ったので、すぐに経歴を調べてみました。そうしたところ、この先生、その時点で別の上場企業の更生管財人をお一人で受け持っていて、過去は数々の重たい再生型倒産の代理人や管財人を引受けた経歴の持ち主でもあり今回は、この社長の案件を引受けたとの事でした。
私が過去に某倒産事件で知り合った権威ある弁護士先生の話では、「倒産村の弁護士はね、序列があってね、破産管財人を受け持つのは新人弁護士か実力の無い人、或いは経験の無い素人弁護士だ。本物の倒産弁護士は再生型の会社更生や民事再生を中心に引受け、余裕があるときに私的整理を受け持つんだよ」「破産は淡々と整理すりゃいいので(会社の規模や知名度にもよるが弁護士なら)誰でもできる、再生型はそうはいかないよ。失敗して再倒産(破産移行)させたら一生評判落とすからね。特に会社更生の更生管財人は裁判所からの信頼もあるので絶対落せない」と「実力と経験、債権者や債務者の痛みがわかり話せる底辺社会を分かるセンスと、ヤクザをも蹴散らす正義感と勇気が必要なんだよね」「勉強だけして、お高く留まっているだけでは出来ないんだよ」
それを聞いた私は、スゲーの一言で「本物の弁護士とはそういう人達を言うんだ」と頭に深く刻み込まれ、あらためて“本物の弁護士さん”に対し尊敬と畏怖の念を持ったのでした。
この先生若いのに倒産村において経験も積んでおられる、しかも東大出身。しかも一人でやってる。しかも服がボロボロ。まさに目の前の先生は間違いなく本物で“弁護士版赤ひげ先生”なんだろうな、と感動しながら思ったのでした。
でも?なんで、この社長にくっついてきたのかな・・・??(③につづく)