倒産列伝006~やんちゃ社長とボロ着先生③

倒産列伝

先生:「お忙しいところ、大変申し訳ございません」さすが腰も低い。「これから社長が話す事をお聞きください。」

社長:「先週、銀行に対してウチが支払いを止めたの知ってるでしょ?」

私 :「はい。」

社長:「これから、この先生に一任して債務整理をしたいと思ってるんですわ。」

私 :「私的再生ですか?」

先生:「良くお分かりですね。」

私 :「とは言っても、あれだけの金融債務を抱えて銀行さん達、認めてくださるんですか?」

先生:「ダメなら民事再生を申立後、破産へ移行させる事も辞さない2段階の交渉を踏みます。」

私 :「良くある話で、良く使われる手段です。銀行さん達は土俵に上がってきます?」

先生:「そこは説明次第かと思っております。」

 以前、別の地区でバンクミーティング当日にコンサルの先生が警察に捕まり、スキームがダメになった嫌な思い出が、頭をよぎりました。だいたい、再生案件が苦手な先生は同席されない事が多い、ましてや大口とは言え、いちメーカにまでわざわざ片道3時間かけて社長と二人でこの先生はやってきた。

私 :「当社にわざわざ説明に来られたのは、なにかあるのですか?」

社長:「再生スキームに協力して欲しいのですわ。」「頼れるのは御社しかないんですわ。」

私 :「どの様な案ですか?」

先生:「御社や他社メーカーの協力を取付けて供給ラインを確保し卸売業が継続可能な状態にします。」「次に、金融債務を半分以下に放棄する様に銀行団に要請します。金利もカットです。」

私 :「へ?また、大胆な案ですね。」(これは危険だ、踏み倒しだ、やっぱヤクザ先生かな?)当業界で債権のカットなど認められるでしょうか?前例など聞いた事ないですが・・・。」

先生:「そうでしょうね・・・。」

社長:「・・・・。」

先生:「社長の連帯保証もすべて解除してもらいます。」「そして一行一行個別説明するために訪問し説得していきます。」「半分になった債務は、スポンサーになって頂いた方に不動産を売却した利益と出資を合わせて弁済に充てます。」「これで銀行団にはこの会社から退いてもらいます。」

私 :「社長の解任は求められませんか?」

先生:「あり得ますが、今のところは株式を手放すのみで対応します。社長さんは社員の精神的支柱でもありますので、仮に退任になっても顧問となって頂く予定です。」

 結構、教科書的な成功に導かれる再生スキームですが、他と違うのはシナリオの立て方と実行のための段取りがとても早い。秘書はいたかもしれませんが、かなりテキパキと動くので全方位で敵のマウントを取るという感じでした。

私 :「当社が債権を負担する掛売で供給する支援の保証をして頂けませんか?」「そうしないと、御社が当社に黙って突然の法的整理に移行した場合は債権が保証されませんので。」

先生:「事前に優先弁済しますから大丈夫では?」

私 :「いつなんとき、偏波弁済と他の債権者からケチをつけられたら会社自身が委縮して何事も決裁取れなくなるのでそれは辞めて頂きたいのです。」

先生:「わかりました。」「社長、いい案はありますか?」

社長:「こないだ返してもらった私の不動産でどうや?」

私 :「その不動産は社長のご自宅ですが、道路に繋がっていませんよね?もう一つお願いできませんか?」

社長:「仕方ない、その前の道路に接してる嫁と娘と息子に生前相続したやつも共担つけるわ。」

私 :「(生前相続したのか・・・寝覚め悪いな)万が一だけなので、会社のガバナンスを通す目的とだけお考え頂いて安心してください。無下には実行しませんから。」

先生:「そんな不動産お持ちだったんですね?」

やっぱ先生にも隠してたな。(④へつづく)