倒産列伝007~続:悪の忍び寄りと与信管理①

倒産列伝

 鉄道環状線駅前の一等地、学生入食いの立地に、当社子会社が運営するその店舗がございました。予備校が乱立し学生が多い土地柄ながら、政党や公共関係のビルなども多かったのですが地権が複雑で、(良くあることですが)不動産の登記が汚れているものが多いとされる一帯でもありました。

 当社の店舗が入居する建物は長い間空きビルだった様ですが、別の土地で当社とトラブルを繰り返す悪質なファンドが並行して運営を受託したビルになったので、頼まれるあまりモチベーションは沸かないながらも入居条件を格安にさせた次第でありました(こちらの物件をAとします)。

 悪質なファンドというのは反社という事ではありません。ファンドの不動産運用スキームに無理があったのか、メインの繁華街物件(こちらの物件をBとします)において度々資金難に陥り債権者への支払に窮し、テナントである当社売上の支払分の前借を依頼してくる不良ファンドという事で、対処に困った現場から私に相談があり調査・分析した結果、まさに破綻状態と伺え一切の前渡しは止めてもらい、物件から立ち退く事を提案したのですが「でも、物件そのものは良いので出ていきたくない」との現場の意向を尊重し、経営状態を厳しく監視し、前渡しを要求されたら関係者に情報共有する事で、いつでも速やかに保全を図れる関係を保つという方針にしたのでした。

私 :「これって、入居するとき与信しなかったのですか?」

現場:「銀行さんの紹介で・・・、銀行が当社の社長のところに直談判してきたので与信と言っても鼻と勘で・・・。」

私 :「ありゃー、悪いハロー効果の術を使われましたね。」

 私は呆れましたが子会社側も「お恥ずかしい」と自覚はしておりました。社長には言いにくいでしょうね。当時は、バブル時代の反省からテナント誘致を受ける事業者は上場している不動産会社や地域の有名デベロッパー以外に相手にしない方針だったので、差入保証金や売上の歩率分の自社分前渡金(売上金を一度テナントオーナー様側に全額入金し当社の取分を締め支払いで後日頂くこと)が焦付く懸念は無く、この部分の与信管理は手離し状態だったのですが、不動産の投資信託が活況を帯びて新たなファンド形態が登場し、さらには銀行や証券会社が彼らを積極的に紹介してくる時代となり、そういうのに免疫の無い子会社の現場にとっては彼らと付き合うリスクが分からず「危なっかしくなった」ので、以降は「厳重監視先」として事前に私に相談する様にという事にさせてもらったのでした。

 話は冒頭に紹介したほうのビル(物件A)の話に戻ります。

 実は最近このビルの周辺が、なにやらきな臭くなってきている事に気づきました。駅前周辺の開発計画が進み、地上げ等が行われているとの情報を掴んだからです。気が付けば、隣のビルはボロボロでまるで幽霊屋敷、その隣の所有者は広域反社会的組織との噂、その隣も似た様なもの、政党のビルもいつのまにか退去し売却されていました。

私 :「なに?これ・・・」「やばくない?」

 私は、周辺の登記情報を洗いざらい取得し確認をしたのですが「う~ん、みんな所有者が入れ代わり立ち代わりで汚いけど、最近の変化はないなぁ」、なんとなく漂う不気味な雰囲気に身構える様になったのでした。

子会社の現場に忠告したところ、現場は「初の女性店長」を配置した目玉店舗という事で盛り上がっており、売上も利益も上々で(実際は先方に無理強いさせ採算分岐が低かった)、成績が良いのでいたずらにファンド側を刺激したくないというのでした。

(②につづく)