店舗の仕事はやはり立地が一番であります。その価値は現場が一番理解していて、経営からは一事業として見なされドライな撤退判断をされると、彼らにとっては身を切られる様に辛いのだと私は理解しており、なるべく与信判断をする際は、彼らの要望は聞き入れ、リスクヘッジが可能であれば経営に対しても、「撤退は最終手段」として猶予頂くよう助言してきました。
女性の新任店長さんがはりきって活躍する店舗だし、会社のイメージ戦略にも十分な立地なので彼らの不安は不良ファンドに焦げ付く事よりも、むしろ自社グループトップが撤退を判断する事だったかと思います。
でもその不安は現実のものとなりました。そのファンドは、その後も資金繰の改善は見られず当社に度々支援を求めてきて都度、みんなで保全を図るというお騒がせな相手だったのですが、ついに融資していた外資系銀行が債権を譲渡してしまい、物件Bの抵当権がサービサー(債権回収専門会社)に変更されたのでした。
「そりゃそうだ、しょっちゅう税金滞納で差押さえされてるし、たぶん返済も遅延してりゃ銀行も着きあってられない、そうなっちゃうよ」と私も不本意ながら現場に毒突くセリフを吐いてしまうのでした。問題だったのはこれからで、その後ファンドの経営陣に連絡がつかなくなり、いよいよ来たかと思われたその時突然、「物件Aの“所有権”を譲受した」なる企業から書面で通知が届いたのでした。
「登記の所有者も抵当権も動かず、営業権ならわかるけど所有権?」できない事はないとの事は知っていましたが、その高度なテクニックと法の抜け道を知っているところは“堅気でない連中では?”との印象で「油断ならない相手」と考え、その会社の筋を集中的に調べたところ、びっくりもびっくり・・・
なんと、「倒産列伝004で当社に近づきそこなったあの反社会的経済筋」の連中だったのです。
正確に言うと、004に登場した連中は一切表に出ず弁護士をたてていてカモフラージュしていたのですが、その会社の親会社のオーナー兼社長を辿ったところズバリ、あの大物経済系反社ご本人だという事が判明したのです。
即座に私が属性要件に加え行動要件も満たしている事を関係者に説明し「直系がきたので緊急避難を」とグループ内にてアラート共有を図ったのですが、またもや「弁護士がいるのに何で反社なの?」「エビデンスは?」とか「オオカミ少年だ、君は過剰保全だ」などと、「自身の保身」を考える、判断すべき立場の人が「判断する材料がない」と言って逃れる状況が出てきてしまい、「どっちが敵なのか分からない」でも「彼らが理解し覚悟決めて英断する様に説明しなければ」「組織は集団で動いているのだから、なんとか彼らを説得できなければいけない」と悩んでいたところ、子会社の社長や経営陣が自発的に撤退判断を申し入れてきてくれたのでした。
彼らは皆、現場経験を十二分に持っている方々が経営陣となり意思決定していました。市中にて営業店舗などに勤務していたなら誰もが反社のややこしさや恐ろしさを知っています。弁護士の存在など何の意味もなく迷わず直ちに回避しないと、関わった自社にどんなマイナスの影響が及ぶか身をもって知っていて、事務方と対峙し孤立している私の大いなる味方となってくれたのでした。
でも同時に、彼らの私の発信を信じた決断は数字を負う立場として、また楽しくやりがいをもって仕事をしている女性店長はじめ従業員たちの働く環境を守らなければいけない立場として、全面的に環境を変えてしまうほどの痛みを伴う苦渋のものであるという事も同時に理解でき、自分の発信がどれだけ重いものか、与信管理実務者としては責任を痛感するとともに、「これが最善なんだ」と自分に言い聞かせ心がとても辛くなるのでした。
(③につづく)