若く出世を夢見た、血気盛んな男達なら仕方ないという過ちもあります。ある日、私のところに某事業部の執行役員が来られて言いました。
役員:「ごめん、回収できない。」
私 :「は?なんの事でしょう?」
役員:「部下たちから聞いてない?やばい債権ができてもうた。」
私 :「いくらですか?」
役員:「500万円強・・・。」
私 :「げ・・・。」
以前も書きましたが、1000万円未満の債権と言うのは、何かにつけ回収困難なケースが多く、労力もかかり大変なものです。
私 :「取引信用保険で対応できるんじゃないですか?」
役員:「ああ・・・実は保険は契約違反してもうてる。既に数ヶ月以上遅延してね。そもそも販売としての売掛債権じゃない。」
私 :「げげっ・・・。」
役員:「何とかならないかな・・・。」
私 :「どういういきさつで発生したのですか?その債権。」
聞いたところ、一流大学を卒業後に国家行政のキャリア経験を積んだ超美人の社長さんが経営するスタートアップ企業が共同開発したGPSツールの販売先を紹介したら当社が得るはずの“紹介手数料”の入金が、500万円以上も遅滞しているという事でした。
私 :「どういうことでしょう?」
話を伺ったところ、私の与信審査が厳しいという事ですり抜ける様考えたのかも知れませんが、当社がGPS機材を仕入れて当社の既存の顧客や不特定多数の先に販売して債権を計上するのではなく、販売先を彼らに紹介し、その手数料を彼らに請求するというスキームを編み出し商売をしていたらしいのですが、商品の販売はスムーズにいっていたにも関わらず彼らからの紹介料の入金が、最初は問題なかったのですが徐々に遅延が始まり、ついには500万円も溜まってしまったというのでした。
なんで?味方を欺く様な事するのでしょう?聞けば、当初の先方の与信評価が芳しくなかったとの事ですが、代表の毛並みの良さとメガバンクが上場の後押しをしている事と一流商社と一流通信会社が出資をしているという事で先んじてグループ経営トップにアピールしたとの事で引っ込みがつかなくなり、与信管理の担当者に頭を下げたくないし水を差されるのも嫌なので、いろいろ思案してこの様なスキームを考え出したという事でした。
その事業における責任トップの方が、いち管理職の私の机の脇の小さい小椅子(普段からいろんな方の気軽な相談に乗れる様に傍らに据えている椅子)にちょこんと座って頭を下げるという事は、切実な話という事で、私としては上のまた上の階級者にヒソヒソと打ち明けられた以上、周りに聞こえる様な説教もできませんし「なんとか、いっしょに片づけましょう」としか言えないのでした。
そばで見ていた私の部下や隣の事務方の一般の人達は異様に見えた事でしょう。でも緊急時の与信管理実務者には珍しくない光景なのでした。
役員:「一緒に来てほしい。」
私 :「判りました。」(ほんとは嫌でしょうがないですが・・・。)
もしも回収に失敗したら、与信管理も同行したけどダメだった的な免罪符の発行を強いられます。
役員:「実は先週、先方とシコタマ飲んで、楽しくて楽しくて大きいの漏らしてしまった・・・。」
私 :「は?」「人間なら、まぁありますよね・・・。」
彼の勇気ある打ち明けに、私は顔色一つ変えない様にして同調し、警戒心が解かれ、本音を聞き出して協力する様に気持ちを切り替えたのでした。やはり役員になる程の御仁なので人心を動かすのはうまい。
私 :「何度も聞きますけど・・・どうして、そうなっちゃうんですか?」
役員:「先方の女性社員達がめちゃ美人ばかりでね、ミニスカートでデモンストレーションしてくれてその後、飲み会にも来てくれるのね。」
私 :「あぁー、それはさぞかし楽しかったのでしょうねー(怒)。」
(②につづく)