倒産列伝008~お色気与信に逆切れおじさん②

倒産列伝

役員と一緒に訪問した事務所は、下町情緒あふれる旧問屋街の一角にありました。事務所に通されると若い社員たちが忙しそうに右往左往と立ち回っています。奥の会議室に案内されるとそこはGPS機材の在庫の山になっていました。当社の役員によると売れていないわけではなく、製造委託しているので、ロットごとに一度に納品されるため置き場所が無くなって、仕方なくここに一時保管しすぐに掃けるとの事でした。

 会議室では10分ほど待たされましたが、担当の方が対応してくれました。

役員:「社長はまだ出張?」

担当:「そうですね~、なかなか帰ってきませんし連絡もつかないんです。」

 私が役員に小声で「社長って元キャリアの?」「資金繰りに奔走している?」と耳打ちしたところ

役員:「元キャリアの社長は、海外生活が長い人で月に一回しか出社しないのよ。」「資金繰りに奔走しているかは分からないけど、国内を回っていて帰ってこないのは実質の社長。」

私 :「ふーん。」

 私は、担当の方にも裏取りを含め改めて伺ってみたのですが、どうやら登記上の代表は元キャリアの美女ですが、実質はなかなか事務所に姿を現さないおじさんという事で、

担当:「私たち社員は、社長と言うと普通、おじさんの方を指して言ってますね。」

 なるほど・・・、海外にいるという登記上の元キャリア官僚の美人社長は、ご主人も国家関係のお仕事をしているエリートな方で、その方が海外に赴任した事で着いていったとの事でした。

 めっちゃ傀儡というかダミー社長じゃん・・・。HPの会社概要にはこの人の申し分ない経歴と素晴らしい代表ご挨拶なる文章があったけど・・・う~ん。

私 :「こういうの少しおかしいと思いませんでした?」

役員:「な~んにも思わなかった。下の連中も盛り上がったけど、そっち(与信管理)からケチが付く予感はあったので、販売形式ではなく手数料形式にしたんだわな。」

私 :「身内の与信管理に“逆与信管理”したわけね。」

私があきれ顔で役員を見ていると「こないだはどうも~!!」と、若くて元気のいい女性の声。

役員:「どうもどうも~」と嬉しそうにハイタッチっ。

女性:「今日はどうしたんですか~?毎日の様にいらしてますね~。」

 女性は、私をチラッと見てすぐに目をそらす。

役員:「いや、GPS機材をこちらも買い取りたくてね。」

 買えば、債権と相殺できる。

女性:「買ってくださいよ~。私達も御社に顔を出して、皆さんにデモンストレーションしたいですぅ。」

 聞けば、彼女をはじめデモンストレーション要員として数人の女性スタッフが、取引先や営業現場、展示会などに登場し、いろいろな機能を説明するのだという。ミニスカートで。

私 :「若く明るくて、かわいい女性たちが来るとさぞかし売れるでしょうね。」

役員:「彼女はリーダー的存在だけど、もっとかわいい娘が一人いて、その娘が良いんだよね~。」

 知るかよっ、本音は私もうらやましいけど、完全に色仕掛けにあって冷静さを失ってるぞ。

 それで肝心の、おじさんといわれる実質社長ってのは、どこ行ちゃったのでしょう?

私 :「役員、正気に戻ってください。」

(③につづく)