いろいろ雑談をしましたが、さておきという事で私どもを応対してくれていた社員の方に、私が「支払遅延が発生しているため、訪問させて頂いた」とお話ししたところ顔色が変わり、すぐに専務なる肩書の人物を呼んできてくれました。
専務:「実は・・・幹部のみですが、ここ数ヶ月給料が遅配しております。」
私 :「なぜ、その様なことに?GPS機材の販売は調子いいのですよね?」
専務:「それが、会計面はすべて社長(ここでは実質の社長つまりおじさんの事)が握っており、資金の用途はまったく下の者に知らされません。唯一、海外に滞在される社長(ここでは登記上の社長)には報告している様ですが・・・。」「私どもも、納得がいかないんです。」「これ以上、幹部連中の士気低下を止められなくなっているんです。」
私 :「なんと、そんな状態だったのですね。こちらでも“おじさん”がどういう動きをしているのか探りましょう。我々も払って頂きたいので情報網を駆使してみます。」
専務:「私どもも、社員の持っている社外情報など収集してみますので、またご連絡します。」
なんと社内ではいろいろ燻りがあった様で、思わず味方となってくれるキーパーソンが名乗り出てきてくれました。しかも№2です。とはいえ、№2がこの状態なら、社内の士気低下は時間の問題でしょう。
役員:「君が切り出してくれなかったら、全然わからないところだった。」
私 :「ただ彼ら自身も“おじさん”と口裏を合わせて我々を翻弄しようとしているかもしれないので、ひとまず今回は退却し、情報収集に努めましょう。」
私は、自分なりの情報網を利用して、この“おじさん”の過去を調査してみました。すると開業する前にご親族が事業に失敗し、その残債の一部を保証していた様で、いまでも返済をしているとの事と、並行して現在もこのGPS機材の事業とは別に、遠方にて不動産分譲の事業をしているものの売れ行き芳しくなく、顧客からもいろいろクレームが来て返金訴訟を抱えているとの事でした。
可哀そうな境遇でもあり同情したくはなりましたが、組織として救済する様な関りでもなく判断は、回収するしかない方向となり、私は「一番大変なパターンに嵌ってしまった」と気が重くなりました。
そして数日後、先方の専務さんからの情報で、幹部の給与と当社への支払いは一部の取引先からの回収を当て込んでいたらしいのですが、その取引先から支払いを棚上げされたため支払えなくなったとの事でした。理由はメンテナンス面でのクレームが原因との事。内部のいざこざはホントの様でした。
当社としては、そんなのは言い訳にならないですし、ましてや従業員の給与遅配は最悪で、そっちが先でしょう。こりゃ自転車操業どころじゃないだろうなと。営業が最新期の決算書をまだもらっていないとの事だったので、すぐに頂いてアラーム分析を行ったところ“破綻値”をマークしました。
支払い遅延の原因は、資金繰難である事が定量評価にて証明されました。では、その資金繰難を発生させているのは何だろう?
そうこうしているうちに、出資している一流商社が撤退交渉を始めた旨情報が入りました。この一流商社は、この会社が早期上場は難しいと判断したのか、出口戦略として持ち分を同じく出資していた一流通信会社にすべて売却しようとした様ですが、通信会社もバカではなく検討の結果拒否した様で、今度は両社ともにこの会社に持ち分を買取ってもらう様プレッシャーをかけてきたらしいのです。
当社の営業なんて、エリート美人社長の毛並みの良さや一流商社、一流通信会社の出資をしているという話を信用して関わったはずなので「とんだはしご外しだ!!」と憤っていましたが、こういうので相手を責めるのは素人で恥ずかしいし、まして最初は自分達がミニスカにおびき寄せられ、定性評価にハロー効果が乗せられたのが原因で、唯一の味方の自社与信管理部門に対しても自分たちの都合を優先し欺いたわけですから、まあ自分が一番悪いです。
勇気を出して我々に事前の相談を行う事と、今後は手数料ビジネスで販売債権でなくても与信管理が事前に審査するというルールを提案し、事業部側の約束を取り付けたのでした。
先方内部情報では、税務署だけでなく年金事務所まで督促通知が送られてきたとの事。
私 :「あちこちに不義理してるんだな・・・なんとしてでも、あの“おじさん”を捕まえて会社に呼び出さないとまずいですね。」
(④につづく)