自分の支配するチームをよく纏めたい目的で、チームの外に共通の敵をつくり仲間や部下の憎悪が自分に向かない様に仕向けるリーダーがいます。自分への求心力を高めリーダーシップを発揮する環境を作るには有効な手段だと思います。しかしそういうリーダーの元で育った人たちが、大企業では味方と考えて協力しあわなくてはならない社内の別部署の人達や、大事な取引先をも敵やライバルとして見る様になり、度を越して弱り目に叩いてしまう姿を、たくさん目の当たりにしてまいりました。
私はその人たちこそが弱い人たちなのだと思ったものですが、それがほんとに近い身内(いわゆる同僚)であったときは、とても悲しくなったものです。
組織の宿命なのかもしれません。
また、サラリーマンとして生き抜くためには無理もなかったのかもしれません。
「どこ向いて仕事をしているのか!?」と憤りのあまり彼らに毒づいた事もありましたが、その結果、陰で新たな敵として・・・「いづれ潰してやる」と言わんばかりで、物事の正否より組織やラインを守ることに必死になっている、そんな企業文化が存在することに対して、ほんと嫌に感じたものです。
反発を受けるのは、与信管理実務者の宿命だと割り切っていましたが・・・。
でも、貸倒れの危機と言う極限の状況に接したとき、それぞれの人格があらわになるところで、やはり債権者として現場に出ている与信管理実務者はそんな内向きな事は気にすることなく、その債務者が最初から人を欺くつもりだったのか、精一杯頑張った結果、“払えなくなったのか”を、よくよく見抜いて態度を決めていく、強い心と柔軟さ、そして優しさが必要ではないかと思うのです。
そしてもう一つ述べたいのは、ある日本を代表する大手総合商社の審査マンの方が「敵は債務者ではなく、債権者である」と、とあるセミナーで話されているのを聞いて「全くその通り」と思いました。
そうなのです。債務者はこれまでお世話になってきた大事な取引先のはずですが、極限状態では当然のごとく弁済原資が限られますので債権者同士の争いが起きます。その時、債務者の能力を評価し支援して生かそうとする(ホワイト債権者)なのか、そんな事どうでもよく回収できればよしとする、債務者に対し更なる多額の債務を積ませて、心を操り(債務の罠と言います)、なんの落ち度もない健全なホワイト債権者を嵌めようとする債権者(ブラック債権者)か、そして思考停止の債権者(色なし債権者)か、に分かれます。もちろんホワイト債権者は少数で稀な存在です。
そう、与信管理実務者が目指す「あるべき債権回収」(ホワイト債権者になり時間がかかってもウィンウィンの関係に戻すこと)に臨む際は、身内のリーダーシップの逆作用(外部を敵視して我々に協力せず足を引っ張る態度)、そしてブラック債権者との駆け引き(リスクの擦り付け)に勝たなければいけないのです。
これから綴る話は切なく何とも言えない、身内が敵なのか?守るべきものはなんなのか?非道な対抗債権者とどう向き合うか?を考えさせられる思い出であります。
「本当の敵」
ある開発部門の責任者から、突然相談をうけました。まだ仕入れ先や開発部門に対する与信管理のサービスは開始していなかった時期だったので、突然の相談はうれしく思うのでした。
全グループでの与信管理サービスの展開をめざす私としては、開発部門の仕入与信管理(私流の造語で授信)に着手できる、先方から相談を持ち掛けてきてくれた実にうれしいきっかけでした。
その開発責任者(プロデューサー)と開発実務責任者(ディレクター)が言うには、全予算数億円の開発案件において、重要な部分を任せた相手が、当初引受けた金額に対して、再三追金を求めてくる。技術的な難易度は大したことはなく、正直ほかの開発会社でもよかったのだが、話を投げた当初は最安値を提案してきて、時間も無かったので速攻で指名した。とのことでした。
ところが、開発の期日になっても進捗が進まず、あろうことかまたも「資金が足りない」と言う様になり、追加資金8000万円を追加投入したが、さらにまたもや資金が足りないと言う様になり、これでは経営問題になるとの事で、事業責任者の紹介で私のところへ相談に来た、との事でした。
私 :「債権があるんじゃないですよね?債務になりますよね?」
ディレクター(以下D):「実は、前金を投入しているんです。」「総額1億円、でも足りないからということで8000万円を追加、それでも納期が間に合わないうえ資金も厳しいという事でもう3000万円を投入しようかと言うところで、グループ経営から待ったが掛かり、“与信管理に相談しろ”との事になってしまいました。」とのことでした。
私 :「その会社さん、ウチにとって必要な先なんですよね?開発の腕前は確かなんでしょ?」
(②につづく)