倒産列伝009~本当の敵⑤

倒産列伝

 帰り際に代表から聞いた、E社の受託・・・、気になって仕方がありませんでした。

 なぜかと言うと、E社の創業者は裸一貫でのし上がり、自身の会社を上場させるまでに成長させた人物でありました。

 しかしながら私の会社が、その一歩も二歩も前を行き、彼がどんなに頑張っても追いつけないほど大きな存在として立ちはだかっていたため、面白くない事があると、言いやすかった私の元上司を呼びつけては怒鳴りつけ、うっぷん晴らしをしていたのでした。

 もちろん、社員の人達にはそんな外部の関係者に対するそれ以上に愛のスパルタ(パワハラ)教育を強いていて、頑強かつハングリーに鍛えられ、数字への執着と与信マインドは当社をしのぐほどで、士気も高く、とても怖い存在でありました。

 そんな彼らでしたが、ただ一つ、私としては残念に思う点がありました。

 それは「市場を成長させていこう」とか「取引先が成長していく事で自社も繫栄する」という考え方が無かったと思える点でした。取引先や市場を良い意味で見下ろす(俯瞰する)事が出来ず、絶えず同じ立場の(低い)目線であったため、寛容性が無く、取引先のクレームを黙らせる様な強気一点張りの営業スタイルであり、かつ与信管理は入口は優しくも回収になると強烈なアクションにウェイトを置くやり方で、自社が生き残り繁栄するためなら取引先が破綻しようともまったく構わない、また支払い遅延を起こせば支援的貸付と称するも完済するまで徹底的に利用する(働かせる)やり方で、私が営業時代にお世話になった取引先などは、ぜったい関わりたくない「狂犬」と呼ぶほどのリーダーシップぶりだったのです。

 ですから、表面上は法的な対応ぶりは変わらなくても、私の取引先を延命し支援するやり方と全く逆の方法であり、近年は嫌悪感まで抱いていたほどでした。

 E社に潰された取引先や下請けはたくさんある、もし彼らがE社に大きな負債を負っていたならどうするか・・・。

私 :「いっこうに先方さんは決算書も資金繰表も出してこないですね。督促してもらえますか?」

D :「なんか、資金繰表は無理臭いですよ。」

私 :「でしょうね。今となっては作っていない可能性が高いでしょう。でもなぜそうなっているのか知りたいので、とりあえず決算書だけ督促してみてください。」

D :「・・・わかりました。」

 数日たって、私の手元に彼らの過去3年分決算書一式が届きました。

 長期借入金と未払金が異常に増えている・・・。当社が先走って入金したものも入っているけど差し引いても、大きいお金が負債となっている。

 銀行からこられたCFOの人の話では、銀行からの借入は止まっている感じだった。月次貸借レベルで増減の履歴をみないとわからないけど、これを見るに元本が減っているとは思えない。

 リスケしている。それでE社を頼ったかな?

 E社と直前まで仕事をしていたとの事だったけど、どのくらいの規模だったのだろう。Dは把握してなかったな。聞いてもらおう。

私 :「E社との過去取引について彼らに聞いてもらえませんか?」

D :「もう聞こうとは思わないです。もう散々です。私は完全に組織で干され孤立したのでプロジェクトを進めるのはもう難しく、このタイトルは世に出ずお蔵入りになるかもしれません。」

D :「なので私・・・辞めます。」

私 :「えーーー?あなたは長く当社で活躍されたはず、キャリアとしても業界で名が売れてるのに、このくらいの困難でやめるのですか?」

D :「どのみち潮時と思ってたんです。グループ内で私のキャリアは先が見えてきまして。」

私 :「実力があるのに正当に評価されない、ということですか?」

 実は私も、彼のそんな雰囲気については前々から感じておりました。上司が私の前に出てこないし。

 こんな数億もかかるプロジェクトなのに・・・、深く理由を聞くのはやめとこう。

私 :「とても残念ですが、わかりました。今後はあなたの上司とやりとりをしますので気にしないでください。」

 なんだか、平和な時は「与信なんて必要ないよ」と馬鹿にしたり、エリートで、きれいな経営企画などの手法には詳しいけど売掛金の概念や信用、債権回収と言うものに全く興味を示さない、でもこういう有事になってくると鼻が利いて逃げる人たちってよくいるよなぁ、そういう人達に限って派閥のライン優先な世あたり上手になっちゃって、いいもの(商品)を世に出すとか、人材や取引先との共生や市場の繁栄よりも、自分の事だけに一生懸命になる。そんな人が多く闊歩する組織になっているとしたら悲しいな。と思うのでした。

 その後私が直接、彼ら開発会社のCFOにヒアリングしたところ、やはり借入金や未払金の増加はE社からの借入だったのでした。正確には借入と支援と称した商材への未払い、なによりも高額な利息も付いて。

 公正証書など交わしているのではないかと探りましたが「その件はノーコメント」。

 うーん。こうなったら代表の自宅から何から不動産抵当を見てみよう。と思って確認したら、銀行の抵当に交じって登記されていたのでした、E社を債権者とする高額な「抵当権」が・・・。

 迷わず撤退だな。内製への変更を提案しよう。

(⑥に続く)