長年の経験や直感による意見を、人に理解してもらう事はとても難しいと思います。特に危機に直面したその様な状況で、会社や組織の命運を左右する判断を求められたリーダーの負担は大変なものでしょう。でもやはり叩き上げの社員が経験し一見してきたことは、理論や言葉で示すよりも的を射ていて大事なのかも?とも思います。
やはり、その様な双方の葛藤を埋めるのは「信頼」「実績」「相性」そして「運」なのでしょうか。
最近よく言われている、上司や部下ガチャの話題をよくテレビで目にします。いくら理詰めの経営や組織、心理医学などの理論が発達しても、「あ・うん」「つーかー」とかいうお互いの信頼や相性で葛藤が取り払われ「運(あるいは縁)」が結果を決めているのかもしれません。
さて、その様なやりとりが続いて間もなく、予想通りに例の開発下請会社の破産申立情報を入手しました。
破産の申立準備は1ヶ月以上かかりますから、こちらがプロジェクトの中止を通知する前に、既に破産する事を決めていたのでしょう。
跡継ぎであった先方の御曹司は、申立の事は知らなかったかもしれません。こちらのやり方に最後まで協力的でしたので・・・。
代表が一方的に決めたのでしょう。こんな苦しい会社の状況を、御曹司に託すにはいかないでしょうから。このあたりの温度差なども親子関係であるのにすれ違う、結果に応じて親子ガチャの理論が出るんでしょう。
そういえば先方の代表が「直談判」と言われたのを思い出しました。なにか当社の経営者と特別なつながりでもあったのか、単なる昔気質な経営者にある直談判型無心のテクニックだったのかは分かりません。
その後、債権者リストを入手しました。
やはり、E社が金融機関に次ぐ大口債権者として名が挙がっておりました。2億以上ありましたのでおそらく当社など対抗する債権者を「盗人に追い銭」させて、自身の回収原資にする戦術を企てたと思われ、そしてうまくいかなかったのだろうと思います。
E社の狂犬社長の目論見を外すことには成功したのだと思います。
当社も前渡し分は実質は対価分の制作が遅れていたので不良債権ですが、会計上は開発費として既に引当てていたので財務上、当社は傷みませんでした。
それにしても損をライバル債権者に擦り付けようとするやり方は良くないと思います。百戦錬磨の戦国武将型経営者としては、たおやかな是非もない生き方の様に思いながら嫌悪を抱きます。取引先の再生を願うやり方を身上とする私としては、理解はできても肯定はできないのです。またそんなやり方は、裁判所の情報公開で他の業界、特に金融機関などにも感ずかれる事でしょう。彼らがその様な業界をどのように評するか、つまり業界全体の評判や信用を落とすという事を考えるべきだと思います。
業界のみんなが資金調達に困るのです。
一方で、もっと罪深いと思うのは味方であるべき身内が一枚岩でない事、まさに足の引張り合い、冒頭に述べた社内外に敵を作り徹底的に存在を否定、自分を守るためには何でもやる。取引先が倒産してもそっちのけです。そんな社内の状況を察して付け込んだE社は絵を描いたのかもしれません。反社会的勢力も組織のほころびを突いてきますしホント止めてほしいです。
破産した下請開発会社も、代表と御曹司で一枚岩ではなかったのかも。
たまたま当社は体が大きかっただけで、たまたま資金繰が着きなかっただけだろうだと思います。
以上、「本当の敵」は何なのか・・・いろいろ考えさせられる出来事でした。
(おわり)
【与信管理実務者の独り言】
・債権者の中には、人が好いほかの債権者(対抗者)に追い銭を払わせ、自社の回収をたくらむ連中がいます。必ず債務者に他に近寄ってきているものがいないか確認するのがいいでしょう。たとえ教えてくれなくても与信管理実務者は教えてもらうために努力し、いろいろ手段を打つべきです。
・本当の敵は社内にもいます。与信管理実務者は、常に社内の人間関係にも気を配り、有事に足を引っ張り得る存在を把握しておくべきでしょう。
・与信管理実務者は、経営陣の信頼を得ると人事的には長期にわたってその仕事を任される傾向があり人事ローテーションから外れてしまいます。そのため、上層への説明責任を果たすためのスキルを磨く努力を怠る可能性があります。私は、つねに努力しておりましたが能力が無かったに過ぎないのですが、特に合理的な判断が無いと気のすまない人や価値観の違う人が決裁者になった場合などは、「あ・うん」「あいつのいう事だから信じて“えいやっ”でいこう!!」(本当は与信管理実務にはこれが一番大事な意思決定の一つなのですが)が通用しなくなるので、稟議や業務スキームだけで理解してくださる専門家はさておき、自身の経験の無い分野にも納得性を求め、しかも口頭ベースで判断をしようとする人には細心の注意を払うべきでしょう。
・社内が一枚岩でないがゆえに、情報収集や与信(授信)マインドも不足し、その結果、不本意に取引先をつぶしてしまう事は大きな罪であり不幸である。その取引先を育成するのにどれだけの時間と人湯がかかるのか一人一人が考えなくてはならないと思います。それを理解すれば社内争いなどしている場合ではなくなるはずです。