「企業のモラルと統制のレベルは、経営者を超えられない」
という言葉を聞いたことがあります。
大学の先生が、とあるセミナーで仰っていました。
私も経験上、その言葉には同感です。
この話は2代目を諫めたい「先代から仕える金庫番」と2代目の夢を適えたい「一流企業から転じたエリート参謀」の確執が破滅を招いたお話です。
都内有数の繁華街にある超高層ビルの1階カフェで私はその方と待ち合わせをしていました。
誰もがあこがれる世界のグローバル企業と肩を並べ入居し、総合受付のカウンターでは上品で美しい女性が座り「お名前は伺っております、こちらへどうぞ」と出迎えてくれます。
その会社も、世間から超一流企業と見なされ訪れる人が後を絶たず、テレビやマスコミもしょっちゅう出入りし、注目の的でした。
でも私は仕事柄、必ずしもそうではないと気づいていました。
超一流企業の中に紛れ、実態の中身は未熟なんだけど世間に一流と言われたいので無理して入居していたのです。
高い入居保証金と毎月の家賃、それらを負担してでも得たいものは何でしょうか?
そう、信用です。
信用があれば、良い商売のネタが集まります。当然、お金も集まります。
良い人材も集まってきます。
そんな彼らの戦略に、本当の信用を計る人たちは眉をしかめていたかもしれません。
私はちょっと違いました。
若い代表が勢いで引っ張る伸び盛りの会社は、きまって財務面は悪くなります。ですから、むしろ「応援していかないといけない」という気持ちで接しておりました。
それに付き合うと、当社にもリスクが及ぶという事も当然承知しておりました。
では、なぜそこまでするのかと言うと「大事な取引先」だったからです。
経営者や経営方針、様々な面で業界内では敵が多く評判がよろしいわけではありませんでした。
しかしながら業界の頂点、いわゆる食物連鎖の頂点に立つ製造業としての当社にとっては、先代にはお世話になったわけですし2代目に承継され永続的に取引が続けられるのが、当社も存続するうえで大事ですし、業界も永続していくわけで、個人的な感情や人の言ううわさなどには惑わされず、正確な情報による冷静に将来性を見極め、この取引先は今後も重要か?ということを考え、その距離感を図ることが大事と考えていたからであります。
それが、与信管理の実務者として重要と考えていたからです。
営業部門や営業マン個々の間でも「好きではない」「嫌い」という者は多く、実際にコミュニケーションをとりますと人を嘲笑する傲慢な振る舞いに「あー本当に好きにはなれない!」という感じではありました。
ただ、従業員の方々はそうでもなかったと思います。
人使いが荒く傲慢な経営者(親子)でしたが、彼らを尊敬し会社を愛し永続的に続けていける様に日々涙ぐましい努力されているところが伺われました。
経営者には良いところもあるのだろうな・・・そう思わせる雰囲気もあったのです。
さて、ある日の事ですが、営業部門のトップの役員に呼ばれ「同席して欲しい」との依頼を受けました。どうやら、その2代目若社長が就任の挨拶と抱負(戦略)を語るとの事で、それにどの程度の与信が妥当かを検討したいとの事でした。
(②へつづく)