やせ形で長身、いかにもスマートでエリートな雰囲気。
落ち着いて和らかい物越しで理論的に話し、安定感オーラが惜しみなく放出されておりました。
肩書は経営企画室長、もちろん今までなかった新設部署でありました。
だいたいこういうポストの方って鼻につく感じで流行りの経営用語を並べて紋切型で改革をアピールし具体策をひけらかす人が多いのですが、この方は違いました。
聞けば我が国の最高偏差値の大学から、我々とは縁がない政府系金融機関を経てこの会社に転じてこられたのだとか。
あの感じ悪い若社長にはもったいなさすぎる、という感じでした。
唯一気になるとすれば、古巣の政府系金融機関が破綻していた事。
偏見と言われればそれまでですが、やはり破綻企業で仕事を覚えてきた人は新しい職場を破綻へ導いてしまう傾向があります。
みんながとは言い切れません、でも私の経験では「そうだな」と思わせる事例ばかりなので。
負の「企業文化」という病を持込むのです。
仕事の仕方、雰囲気の作り方、対人関係(特に社内での立ち回り方)、アピールの仕方などなど。
いわゆる目に見えない暗黒物質というやつでしょうか。
「それが破綻に導くのですよ」と言っても、本人は気づいていないどころか自分の成功体験になっている場合が多く、責任ある役職が着いてくると特に厄介なものです。
こちらも、宇宙の暗黒物質とおなじく誰もが存在を感じていても立証できないので、ただ見守るしかないのですが・・・。
この室長さんはこれまでの現状に加え、いろいろ経営に関するこれからの戦略を述べられ、具体的な定量指標などもまじえて「将来どうなりたいか」「どうなるべきか」を示してくださいました。
でも私は、彼の話を聞きながらも、頭の中ではただ一つのことしか考えていませんでした。
「この男はアラーム分析システムが出した、この会社に対するアラーム評価(破綻値)を健全値に変えられるだろうか?」でした。
事前調査したとき過去10期分の決算書の評価ですが、③でも触れましたようにこの会社の成長パターンはまず借入依存度が急激に上がる(債務超過にもなる)そのときはもちろん「アラーム評価(破綻値)」がでます。
その後、ぶちあげた計画が成功して収益が付いてきたら健全値になる。
その繰り返し。
現在は、最悪の「破綻値」状態。
こういうとき私は、あえて素っ頓狂な質問をします。
私 :「このビルに入居した理由は何ですかねー?」
室長:「は?」
意表を突かれ高性能CPUが錯乱したのか、目玉がくるくると小さい円を描く様に小刻みに振動するのが分かりました。
その後私は、この方の目玉(黒目部分)が小刻みに振動するときは、頭がくるくる回っているとき(特に混乱した時)だというシグナルとしてとらえたのでした。
(⑤につづく)