室 長:「だって・・・人来ますよね?」
「こんな有名なビルだもん。いい人材が集まりますよね?」
「私だって、そうだったんだから・・・。」
「信用だって、大いに高まりますでしょうし。」
私 :「そうですか?いい人材ね。」
「御社が望まれるいい人材って、どういう人材でしょう?」
室 長:「・・・・・」
正直、ご本人も自信なかったのでしょう。不安があったのでしょう。
そりゃ長年、金融機関にいたわけですから。
いい人材が集まると決めつけていたのは、あの若社長だったのでしょうから。
集まらなかったら自分の責任?という不安にも襲われたのでしょう。
いい人だったので、私は助け船を出すつもりで告げました。
私 :「集まりませんよ。」
当時このビルには有名企業のほかは、皆ベンチャーとかスタートアップとかIT系だとかの類で虚業と言うべき企業ばかりが入居していました。
でもそれが、我が国のダイナミズムを醸していたのは確かでしょうから無視はできませんでした。
優秀かつ有能で将来性も高い人々や法人が集まっていたのは間違いないのです。
しかしながら、同時に巧妙で故意と言えるような詐欺、詐欺まがいの、ビジネスの“ふり”をした悪魔な連中も多く交じっていたのも分かりました。
後年、次々と倒産や破綻し市場を人知れず退出するだけでなく、世間をにぎわせておきながら警察に捕まってしまう反社な連中もたくさん出たのでした。
私 :「大成されている社長さんは、みなさん言われます。」
「成功の過程にある時、金儲にならない本社建物なんか要らない」と。
「与信実務として評価する常識でもあります。」
室 長:「そうです・・・か・・・。」
賢い彼は、ご自身の考えを尊重する事にされた様でした。
若社長には「彼が言ったから」と、私のせいにすればいいんです。
それからしばらくすると、その若社長からこちらの役員に再びアポイントが入りました。
「自分たちの価値はどのくらいかを知りたい。」との事だそうです。
そう、お金も集め、社会認知も高めたぞ
そんな将来性高い自分に、どのくらいの与信枠を付けてくれるんだ?
商品供給をしてくれるのか?
知りたい。
というものでした。
もうその時点で外資系金融機関だけでなく、国内の有名メガバンク、大手地銀まで高額な枠を用意している状態になっていて、待機していたのでした。
なので彼は十分な認知を得て満足だったと思うのですが、我々の用意する枠の方が大事だったのです。
彼の社内に加え、なによりも同業の老舗に先代を超えた本物だと、認められたい意地と欲求があったのでしょうね。
(⑥につづく)