「この取り合わせはいいよなぁ。」
応接に入りますと若社長の横に、例の室長と先代のときから付従っている金庫番が両脇を固める様に堂々と立っていました。
私は、この二人が若社長を守っていれば頼もしいと思ったのでした。
3人とも、まだお若いし。
金庫番については、先代のころからこの会社に仕えていました。
前々から先方の代表として交渉の場に出てきていましたので、顔はよく知っていました。
彼らなら、若社長の至らない部分を支えてくれるでしょう。
3人の雄々しい姿を見て、そう感じたのでした。
若社長:「で、私のプランにいくら用意してくれますかね?」
前にも述べましたように、彼らのプランは残念ながら成功する確率は低いでしょう。
しかしながら、「買いたい」と意思表示をしている相手に不確実な理由で「売らない」と返すのは商売人として情けない話です。
当社の役員が伝えます。
役 員:「当社が前例、実績のない中でいきなり枠を用意する事は難しいですよ、本来は・・・。」
「でも、就任のご祝儀とチャレンジ精神に期待値を込めてこの額を用意しました。」
役員が目で合図します。
私 :「10億円を用意します。ご提案頂いた事業に関係するものは月末締翌月末支払現金振込または小切手100%でお願いします。それ以外は従来通りの取引条件で結構です。」
若社長:「うん・・・御社にしては、まあまあの額を用意してくれましたね。有難うございます。資金の大半は困らないので従来の条件である手形や分割払をお願いする事は無いと思います。」
役 員:「月末締翌月末支払現金100%だと、枠一杯使うとすれば月の取引は平均5億円をお願いする事になりますよ?結構なプレッシャーですが・・・?。」
若社長の生意気な発言にイラっときたのか、当社役員が問いかけました。
若社長:「我々のプランは煮詰まっています。そのぐらいの期待には余裕で応えて見せますよ。」
室長の目を見ましたら、小刻みにくるくる回っているのが分かりました。
私 :「これだけは申し上げておきます。資料一式頂きすべての情報の開示を頂き真摯な姿勢に感謝いたします。しかし残念ながら内容の評価につきましては、安全性に確信を持てるものではありません。」
若社長と室長の顔は私の発言に一瞬青ざめましたが、金庫番は笑みを浮かべながら小さく頷いたのが見て取れました。
私 :「この枠の設定は、グループ内では異論が多くあり決裁を取るのに苦労致しました。御社が失敗した場合は、その責任は我々の事業ですべて受ける覚悟で決めたものです。」「したがって、すべて当グループ子会社との取引もこの枠内で名寄コントロールを行う事としますのでご了承のほど、お願いします。」
名寄せと言うのは、違う法人である当グループ子会社との取引は、すべて親会社でもある我々の用意した、この枠の中で合算してコントロールされるということです。
若社長:「つまり、グループ全体の取引枠という事ですか・・・問題ないでしょう、承知しました。」
彼の表情に金は問題ないと言っているのに「その態度は何だ?」という表情になりました。
私 :「大変恐縮ですが、先代の連帯保証も設定させてください。」
若社長:「監視されて連帯保証も?・・・いいでしょう。まだまだ私の信用が足りないのですね。」
私 :「それから・・・」
若社長:「まだあるんですか?」
役 員:「こいつは、守りが仕事なので失礼ながら聞いてやってください。」
(⑦へつづく)