私 :「この10億円の枠について、さきほどグループ名寄せ枠と申し上げました。さらにこれは当方が恒常的に用意する枠でありますが、“1年間は固定する”という意味であります。当グループのどの企業との取引にもこの枠内でおさめて頂くことに加え、枠の上限は1年ごとに見直しを行うというものです。つまり、私どもが期待する取引実績に満たなかった場合・・・減額いたします。」
若社長:「・・・でしょうね。構いませんよ。望むところでしょう。」
若社長の顔が赤らんだのが分かりました。
同時に両脇の二人の片方は笑みを浮かべ、片方は目玉をくるくると震わしているのも分かりました。
明らかに、若社長は怒っていました。
彼が会社に戻り、部下の方々に八つ当たりする姿が、私の頭に浮かんだのでした。
幹部たちを委縮させる態度、彼の怒りまくる姿が浮かんだのです。
これが地獄への舗装道路が敷かれるターニングポイントだったかもしれません。
我々の彼に対し回答した評価は、彼の中ではある程度、満足な条件だったはずです。
しかしながらそれは、投資ファンドや金融機関から受けていた心地よい響きのものとは大きく違った事や、なによりも私が最後に発した言葉が、部下である幹部達も予想していなかったと思います。
私も「なぜそういう言葉を発したのか・・・」ちゃんと説明をするべきでした。
そうさせなかったのは、若社長に良い感情を抱いていなかった事、両脇の幹部が諫めてくれることを期待したからだったと思います。
私の中の「暗黒物質」が、そうさせたのかもしれません。
それからすぐに彼らは、身を粉にし計画を実行していきました。
取引先を集めこれからについての説明会を行い、協業者を増やし、理解者を求めいろいろなイベントを催したのでした。
目標の基本は当然、成長をうたった売上拡大です。
彼らにとっては、直営の店舗を増やし、また取扱う商品を購入してくれる取引先を増やすことでした。
したがって、その後も絶えず企業のイメージアップ戦略として、おしゃれなプロモーション活動や金融機関向けの知性高く見えるかっこいい説明会を行い成長をうたう必要があったのでした。
芸能人や有名ミュージシャンを役員に迎えたり、有名企業の代表者とのメディア対談に積極的にでて世の認知と理解を求め、努力しました。
そのために、あらゆる経費を使ったのです。
きらびやかな店舗の装飾など設備投資、交際接待費、広告宣伝費・・・すべて有意義に使われていったかと思います。
・・・それから早いもので1年が経ちました。
ようやくになりましたが、“彼との待ち合わせ”の場面、この話の冒頭に戻りたいと思います。
(⑧へつづく)