別件である地方の裁判所に用があった際、彼らの創業の地、現在でも会計など中枢部門が残り、会長となった先代が管理されている拠点に寄らせてもらおうとアポイントを取ったところ逆にあの金庫番から「こちらも話したい事が・・・」と言われ、お会いする事になりました。
金庫番:「身の程を知った体制に縮小します。」
あれ?先日、室長さんが言われた言葉といっしょだ。二人とも気持ちは通じているんだな。
私は、これから二人三脚で若社長を説得するのだろうな、それなら安心だ。と考えたのでした。
金庫番は、飾らない人柄で身なりも流行を追わず、小奇麗な紺のスーツを着ていて少しぽっちゃりした見栄えでした。性格も表情はいつもニコニコしながら、でも私の質問に動じないポーカーフェイスなところがあり、私の様な仕事の人間には逆に信用できる人物と言う印象を与えてくれました。
会長さんが、いつもそばに置きたくなる。
そういう雰囲気から、金庫番は会長のそばにいる目付け役、一方で室長は若社長の守役という社内キャラになっていると想像できるのでした。
しかし残念ながら、高額な設備投資はなかなか見合った収益に結び付くことはありませんでした。
より高額で高級な本社ビルに投じた費用が響いた事と「身の程を知った縮小」は適いましたが皮肉にも、撤退縮小に伴う高額な違約金が発生しキャッシュを散逸させたことが大きな原因でした。
ほぼすべてが借金で、そのうちかなりのお金が利益を生まない本社設備の投資につぎ込まれてしまったのです。
そんな状況を心配し、私は何度も本社ビルに足を運び資金繰りの状況を尋ねました。
室長さんは「順調です」「身の程に縮小した効果が出ています」との回答ばかりでしたが、目がくるくると震えるので実際は厳しさのだろう雰囲気が伝わってきました。
その少し後、金庫番から電話が入りました。
「銀行団に返済を遅らせてもらった」と。
「あなたにも伝える必要があると思いました。上場など夢遠い話です。銀行団に提出した“経営改善計画書”をお送りします。」
室長さんは、そんなこと何も話してくれなかった。
私に対して心許してくれてない、劣勢だということを言えない、プライドがあるのかな?
別の日に、とある企業再生コンサルタントのセミナーに参加しました。
会場を見渡すと、経営の存続に悩む深刻な表情の経営者達と思われる方々が大勢いました。
「おやっ?」
その中に、見慣れたお顔が・・・。
なんと、室長さんではありませんか。こちらには気づいていない。
室長さんは、会場の中でも一番と言えるほど熱心に、壇上の真ん前で講義を聞かれておりました。
私は、少し斜め後ろの席におりましたので表情までよく見えたのですが、顔から首が赤紫になっている様に伺えました。第一印象が、色白で精悍な雰囲気の方でしたから心配になりました。
私の持論ですが、経営者やそれに近い方々の顔色が赤かったり、赤紫色になっていると資金繰難に起因した心臓などの不調を抱えていると考えてしまうのです。
過去の経験から、顔が赤紫の方はたいてい資金繰が苦しい状態で、ときに心臓の病気になり倒れる事がありました。
私は、セミナーの終了後にこれまた熱心に講師に質問など行う室長さんを待って、後ろからトントン
と肩を叩いてみました。
彼は、私の姿を認めるや声にならない叫び声をあげて仰け反りました。
(⑩へつづく)