若社長:「で、アンタは?うちの金庫番になんであんなこと要求したの?」
まるで「金庫番の後はお前の番だ」とばかりの唸るような声で私に問いかけてきました。
私:「御社に万が一のことがあった場合、最善のご支援として保証金の差入れをお願いしたんです。そもそも、支援を求めてこられたのは金庫番さん、すなわち御社側なのですよ?」
若社長:「詭弁だね。アンタは詭弁家だよ。」
会長:「そうだ、ウチが潰れるとでも思っているのか?」
この親子は、本気で言っているのか?と耳を疑う言葉が出てきました。
見栄を張る人種であることは前々から分かっていましたが、現状を分かっていないはずはないと思っていたので・・・。
会長:「おまえは入社何年目だ?君の会社とうちの関係を知っているのか?」
私:「入社20年を超えております・・・。」
会長:「・・・・・だったらわかっているだろうよ。」
そう、この会長が新規開設先として当社の取引先に名を連ねた時のことは覚えていました。
まだ私は与信管理者としては駆出しで、異論を述べる余地などなく当時の事業部長が進めるがままに上司が回付したのですが、経営を傾かせたトップにうまい具合に近づいて実績もないのに新商品を優先的にまわしてもらい、値段もはじめから大手以上の待遇を受けたのでした。
プロパーの若い社員は皆、事業部長のやり方を不満に思っていましたが、当時中間層も含め誰も意見を言える人はいませんでした。
彼自身もトップに気に入られるためにやった事でしょうし、私も人を出し抜いて自社を早く発展させようとしている会長さん(当時の社長)のメーカーに取入るやり方は、ズルくても経営者としては一流と学ぶところはあり、そのバイタリティに感心したものでした。
そんな、わずかながらも尊敬の念を会長さんに抱いていた自分がバカだったと思える言葉を投げつけられたのでした。
会長:「ウチは、長年どこよりも大手として扱ってもらった。功績を知っているのか?恩知らずも良いところだ。俺を誰だと思っているんだ?」
この会社よりも、商品出荷も価格設定も優先度高く取引額も高い先はたくさんありましたのに・・・。
老舗として当社の仕切る条件をかたくなに守ってくれ、そして健全経営を行い多くの社員を率いて、その家族の生活を守っている尊敬すべき取引先はたくさんいらっしゃいましたのに・・・。
この親子はどうでしょう?
少しでも、決算内容に問題があれば粉飾を指示し、違法なことでも平気で光熱費をちょろまかし新聞に叩かれ、税逃れで疑義がたっても知らぬふり、そして部下のせいに。
最初の方で述べた様に人使い荒く、業界内でも評判は実に悪い。
従業員の方々の努力に同情し、慮った甘い与信をしていた自分に対して後悔の念と怒りが一挙に噴き出してきたのが分かりました。
若社長:「だいいち、御社に保証金を入れるってどういうこと?御社ごときにっ。」
私:「・・・どういうことですか?当社は最大手ですよ?しかも御社は当社に黙ってほかの大手さんには保証金を積んでますでしょう?」
若社長:「そんなこと知らないね?何でそう言うの?」
私:「決算書をみていればわかります。どこに差入れているかの情報も掴んでおります。」
若社長:「そういえばアンタ、当社の資金繰表まで要求したそうじゃない?」
室長:「6ヵ月分を要求され、今までに二回渡しました。」
若社長:「さらに資金繰計画表まで6ヵ月分出せと言ったらしいね。」
室長:「金庫番に伝えてきて、彼が応じたらしいですよ?」
若社長:「実にけしからんね?内政干渉も甚だしいよ、銀行さえ言ってこないよ?そんなこと。」
資金繰計画では、およそ5ヶ月後に折返し資金が尽きる状況になっていました。
私:「このままだと資金繰は数か月後に危機的状況を迎えるのでは・・・・?」
若社長:「だから、ウチは倒産しないってっ!!」
私の言葉を遮る様に、怒鳴ったのでした。
そして、次の言葉がついに私をキレさせたのでした。
会長:「ウチと君の会社がどのくらい蜜月だかわかってないんだよ。君の様な社員がいたら会社も迷惑だ。君んとこのオーナーに言って君を排除してもらう様に言うつもりだ。覚悟する様に。」
私:「どうぞ、ご自由に。良かれと思ってやった事、これでクビになるくらいなら本望です。」
彼ら親子を怒りの目でにらみつけ、気が付いたらこの言葉を放っていたのでした。
(⑭につづく)