倒産列伝011~会社の破滅を招く暗黒物質⑭

倒産列伝

 

 会長さんは私の本気の怒りを察した様で、一瞬「なんだ?こいつ」、珍しく逆キレするやつだ。

という驚きの表情を見せました。 

 そして室長さんの目も、くるくると小刻みに揺れて「なぜ?こんな態度ができるんだ?」

 そんな狼狽えぶりでした。

 私にとっては、自社が過去倒産しかかった時、またこの仕事で取引先にたくさんの無理な要求をした時、そして彼らの倒産を見るうちに、諸行無常の考え方が付いてしまった様で、常に覚悟が染みついて自分の保身というものが考えられなくなっていましたし、自社の経営者(オーナー)が、こんな連中の話を真に受ける様なら「仕方ない」と、開き直ったいつもの態度だったのでした。

 会長:「とにかく君は覚悟していなさい!!」

 平謝りの当社営業マン達とともに、私はその場を引き揚げました。

 帰りの車の中で、営業の連中は何かを話しかけてくることはなく、流れる田園風景を眺めながら

「こんなきれいな景色が作り出されるプロセスには、暗黒物質なんて存在しないんだろうな。」

 ・・・青々とした空と真っ白い雲が映りこむ水田の輝きと透明感が、そう思わせるのでした。

 数日後に別件で大型倒産があり、関係部門を集めた会議の場で親しい取締役から「某取引先から、きわめて横柄な与信管理者がいる」と上層部にタレコミが入ってきたと連絡をもらいました。

 周辺は少しざわつきましたが、私の性格を知っている役員も、またそれを聞いたオーナーも、私に対して特別な何かをする事はありませんでした。

 それから私は、あの会社に連絡する事は無くなり、来るべき時に備え、部下に命じて粛々と防衛の準備を進めておりましたところ、まったくの別部門子会社のトップに対し例の御曹司が、当社に事業を譲受しないかと持ち掛けてきたと、グループのトップから連絡が入りました。

 別部門子会社トップは、どちらかと言えば与信マインドが高くないうえ、私を信頼してくださっている役員の方々と敵対している人物でもあったため、その話に乗り気となり前向きな返事をしてしまった様でした。

 さすがあちらの会長さん、こちらの痛いところ、暗黒物質がたくさん漂うところを突いてきた。

 彼らが持ち掛けてきた話は、結構ふっかけた内容で「まずは御社からもちかけてダメなら他社に話す」ともったいつけた条件だったのでしたが、営業部門などからするとナンセンスな商談で、その事業は高すぎるうえ手に入れてからも大変苦労する事を察するには時間のかからないものでした。

 さすがの反する派閥といえども、グループ内で敵対勢力とはいえども、大本は一つのチームです。

 まずは自分の功績になるかならないかを見定め、そしてその次は目上の誰かに相談し功を献上することにしてご相伴に授かれないか、部下に勧めて恩を着せられないか、それからよくよく考えてみて空気を読むのがうまい側近たちに相談し、最後は総合的に「うまくない」という結論になり、私に意見を求めてくるのでした。

 つまり断り文句のうってつけの存在として、フラットな主義の私の存在は、敵対する側の人間とみなしていても都合がよく「あいつが言っているから」は使い勝手の良い締め言葉に利用でき、社内でも信用リスクを盾に、乗りかけた泥船の話をギリギリで断るのにちょうどよい存在なのでした。

 時間もかかり、なにを考えているかの探り合いもあり、グループのトップを挟んだ駆け引きもあり、最終的には経済的な価値観で「やめとこう」という判断になった様です。

 最初から、やめとこうが正解なのは大方分かっている事でした。

 経営難であることは世間に知れていないものの私から発信される内々の情報はフラットに共有していたのですから。

 即金条件で事業を買ってあげたとしても、あの親子が一生の恩義を感じるどころか、吹っ掛けてくる姿勢を見ても、譲受後に苦労している姿を心でせせら笑いながら「いい買い物したでしょう?あの事業が軌道に乗せられないのはあなたがたの能力がないのでは?」と平気で公私の場に関わらず言える方々なので、当然の判断だったと思います。

 問題なのはあの親子、本当に困っているのは彼ら自身のはず。

 この期に及んでどうしたいのか・・・別次元の暗黒物質を見た感じとなりました。

 むしろ、私への恨みが募った事でしょう。

 つくづく、社員の方々、特に譲渡される事業の社員たちがかわいそうになりました。

 でも、どうにもできない。

(⑮へつづく)