倒産列伝011~会社の破滅を招く暗黒物質⑮

倒産列伝

 刻一刻と破綻が迫っているのに、あの親子は自身の城を吹っ掛けて売る事ばかりしていました。

 でも、同業他社も当社グループ同様、買うはずがありません。

 みんな、あの親子の事が嫌いです。

 よほどうまい話か、「困っているから」と泣きながらでも頭を下げないと・・・。

 風評ですが、この事業譲渡の話は有力なコンサルタントが提案してきたものだと聞こえてきました。

 雰囲気を察してか、あの親子は「売れないのはコンサルのせいだ」と言いまわる様になりました。

 そういえば・・・

 何年か前に、室長さんから「増資を検討しているので会ってもらえないか?」と紹介され、彼に伴われわざわざ当社を訪ねてきた連中がいました。

 みなさんお若く、話し方や所作から何までいわゆる「超エリート」と言う感じの人達でした。

 室長さんも、もともと我が国で一番の優秀な大学で学び、破綻したものの超一流の金融機関で活躍していた方ですから、この様な方々との人脈はいくらでもあったのでしょう。

 室長:「業界が、どの様な業務を行っているのか説明してもらえませんか?」

 3~4人連れて来たでしょうか?そのうち一人のリーダー格の方は、たどたどしく日本語を話す外国人でしたが、品の良い紳士でした。

 私が、簡単に話を終えると

 室長:「今度は、当社の現在の信用状況と将来性について話してもらえませんか?」

 室長さんは、私が取引先の中でもフラットな話をするタイプであり、彼らに客観的な意見を伝えてくれるとの期待があったのでしょう。

 彼は増資を可能にする事でテコ入れし、成長の速度を緩めないためにいろいろな努力をされていました。

 そう、彼らは外資系買収コンサルタントで世界中のファンドから資金調達し再生支援をする事が出来る方々だとの事でした。

 私も室長さんが、「彼らにはざっくばらんに話していいんです。」との事だったので、ざっくばらんに話したつもりでしたが、リーダー格の外国人の方(名刺の肩書は“プリンシパル”と書いてあったので、当時は聞き慣れず校長先生みたいな役職?としか思わなかったのですが)が、けげんな顔をして

 プリンシパル:「アナタガ投資家ナラ、コノ会社ニ出資シマスカ?」

と、“どストレート”に聞いてきたので、私は思わず「は?」と返してしまいました。

 なぜ私が、出資した場合の意見を聞かれるのか理解できませんでしたから。

 私:「それはあなた方の仕事では?私はその立場にありません。」

 きっぱりと申上げました。

 リスクを承知で企業へ出資をする仕事の人達が、答えを聞いてどうすんの?

 そう思ったのでした。

 横をチラ見しますと、室長さんの目がくるくる小刻みに回っているのが分かり、「あぁ想定外だったのかな?」と思ったのですが、前もってなにか企みを伺っておけばいろいろ協力もできたろうにとも思えて、私の感が鈍いのか、空気を読んでおくべきだったのか、そう感じたひと時でした。

 というか、インタビューの対象に聞くかね?答えを。

 でも、外資系の方々は時間が命、数多くある出資希望のお話をさばくのが優先で日本人の回りくどい話を聞くのは時間の無駄と思ってしまわれたのかもしれません。

「すばらし会社ですから、絶対投資した方が良い会社ですよ~」

と、ノリノリに話した方が良かったのかな?

 真面目に堅物ぶって返したのはマイナスだったのかな?

クレジットカードの即金決済か何かのCMを思い起こさせるかのように

「じゃ、いいですぅ~」

と言わんばかりに“プリンシパル”を先頭にして帰られるエンデの小説に出てくる様な冷たく灰色の人達でした。

 でもなぜか、彼ら周辺の空気は澄んで見えました。

 私に会う前から彼らに答えは出ていたのでしょう。プロですし実は直感も鋭いはず。

 反対にプリンシパルをエスコートして横を歩いている室長さんの後ろ姿の周り(オーラ?)は、すこぶる淀んで見えたのでした。

 「あ・・・暗黒物質だ」

 で、あのコンサルタント達と繋がるファンドから投資が実行されたとの報告は無かったのですが、増資が適ったのは決算書をみて分かりました。

 いま思えば、どうしてあげればよかったのかな?

 そう悩んだものですが、意外と短絡的にお金が動くのだな?

 とも思え、気の利かない私は学んだ瞬間でもありました。

 とは言え、増資が成功してもあの親子が、室長さんや私に感謝の念を述べるはずもなく、失敗したときだけ関わった人間のせいにするだけなので気にすることはないのですが・・・、室長さんはこれ以上ご自分の努力の結果に労いの一つもなく、ただ御曹司から貶されるだけの姿が想像でき、さらには社内の暗黒物質に邪魔され、この会社に転じた時の上場企業にするという目標も適わないまま。

 それどころか、あの二人の放漫経営により破綻に突き進んでいるのは明らか。

 金庫番も同じ気持ちだったかもしれません。

 そんな雇われ生活が嫌になったのでしょうか・・・

 時を戻すとある日突然、当社の営業担当から「室長さんが二人だけでお会いしたい」とアポイントが入ったのでした。

 「都内の某ホテルのロビーで待っています。」

(⑯に続く)