倒産列伝012~華やかな世界、支えているのは①

倒産列伝

 二次利用と言う言葉とそれに伴う仕事があります。

 クリエイターという「創造する人」たちが考えた物語やキャラクターを使って、当初は小説や映画、アニメ用に作られたものを、様々な別の世界に転用しお金儲けをする事だと理解しています。

 ゲームの世界にもそれはあります。

 まず最初に、創造主を見出した出版社やテレビ局、そしてゲーム会社などが〇〇委員会などを組成してリスクを按分し分担、更にそれに群がる様に音楽、飲料・お菓子、広告、自治体等々が賛同して、すそ野まで序列がトリクルダウンしていきます。

 その中に、演劇というのもあったりします。

 もちろん、創造の源が演劇の脚本であったなら委員会のトップになる事もあるでしょう。

 でも大抵、演劇などは芸術性が強いのでステイタスがあるのは古典的な作品を世界的に有名な役者や一流の劇団・歌劇団などが演ずるものなので、二次利用などは無く、それがあるのはヒットした小説や映画・アニメなどで、売れっ子TV俳優が演ずるというレベルのパターンになるかと思います。

 ゲームの世界もだいたいその類で、大ヒット作品に必ず二次利用の話が用意されます。

 今回は、その二次利用の序列の片隅で頑張って生きていた方の話になります。

 私の机の内線が鳴りました。

「悪いんだけど、同行してもらえないかな~?」

 少し酒で焼けた低めの声で優しく言われたのでした。

 声で分かりました、キャラクターなどを売出したりマネジメントする部署を率いる部長Sさんです。

 ポニーテイルで髪をまとめ、日焼けした、少しトロピカルなメイクとファッションは特に社内では印象的で仕事ができる感じ、まさに華やかな世界で自分の部隊を率いる「業界の人」というキャラ。

 

 でも彼女は普段、与信の世界についてはぜんぜん興味を示しません。

 基本はどうでもよいと思っている感じでした。

 こういう業界に関わる人は、ほとんどそうなんだと思わせます。

 心の底は理解はしてくれていたと思いますが基本は無視、「信用と言うのは人と人」これに尽きる考え方の持ち主で、なので私の様な人間に対してその存在を理解し必要と思っていても「普段関わりたくない人」、そういう印象を持たれていたと思います。

 でも、会社が大きくなると人情だけではうまくいきません。

 しかたなく私の様な人間を「頼るしかないか~!」という状況が必ず出てくるので「まあ押さえとこうか~」というレベルで関わっていたのだとは思います。

 いつもギトギトする世界しか見ないので、私にとって彼女からの依頼は難しいながらも華やかな刺激になる案件が多いのでした。

 そんな彼女の依頼はと言うと・・・

S氏:「ウチが立替えた舞台のお金、返せないって言うんだよね。」

私:「え?だいたい、そっち系の業界って前金で与信要らない世界なのでは?」

S氏:「あ、そうなんだけどね。年末の緊急でさ、人気の舞台ホールを押さえるのに手付が必要なんだけど、舞台全般を仕切る受託会社にお金なくて、年内の講演が出来なくなるということで、ついついね・・・。」

私:「ってことは立替てあげたんですか?」

S氏:「そうなんだよね~。」

私:「いくらですか?」

S氏:「2000万円」

私:「ありゃー、よく稟議が通りましたね。」

S氏:「まあねぇ。」

 実は稟議も上がってませんでした。

 年末であり、究極の水物である事を理解していた経営トップの意向で、電子稟議や電子取引先登録など諸々のワークフローにおいて関係部署の承認など必要だったのですが、すべて主幹部署だけで電子稟議などを紙にして回し、証跡にしてあったのでした。

私:「それってダメじゃないですか?」

S氏:「ねぇ、でもしょうがないんだよねぇ」

私:「監査に追及されますね。」

S氏:「頭痛いんだよね。」

私:「とにかく、早急にカタを付けて事後申請の決裁を取付けておくしかないですよね?」

S氏:「こまったなぁ~。」

私:「その相手先の商業登記を取得し信用調査も取得しますので、決算書をもらってきて頂けますか?」

(②へつづく)