倒産列伝012~華やかな世界、支えているのは②

倒産列伝

 「はぁい、決算書頂きましたよ~」

 彼女の第一の部下の課長職も女性のF氏、この方も美人で髪型も同じくポニーテイルながらもボーイッシュな雰囲気も漂わせ、あっさり淡々と仕事をこなす人でした。

 これまた与信には全然興味ないという感じで上長の指示に従い仕方なく、訝しがる相手を説得してきたと言いたげな、気だるそうにそれを渡してきたのでした。

 内容を分析し見てみると・・・

私:「まったくのアラーム状態ですよ。つまり資金繰が破綻状態という事。もっとわかりやすく言うと既にもう倒産している。という事になりますね。」

S氏:「へーそうなんだ、あとどのくらいもつ?」

私:「5年前ですね。」

S氏:「え?」

私:「5年前の決算書から既に死んでます。“お前はもう死んでいる”って、つまりゾンビ状態ですね。」

S氏:「じゃあ、死んでる会社にお金を立替えちゃった、つまり貸しちゃったわけ?」

私:「そうなりますね。前金が慣習の業界ですから相手を調査する事も無いので無理もありませんが、イレギュラーだからとはいえ、安易に高額な立替をしたのはまずかったですね。実行する前に、私に相談して欲しかったですよ。」

S氏:「あちゃーっ頭痛い。時間なかったからな~。」

 頭痛いのは二日酔いだからじゃないの?なんて心の中で突っ込みたくなる様な、アンニュイというのでしょうか・・・なんだかフワフワして、真剣に悩んでるのかな?と思わせる態度に、こちらも怒る気もしなくなり、苦笑いをするしかありませんでした。

 このときはまだ、あんな切ないことになってしまうとは思ってもいなかったのです。

 

 アニメの世界で、誰もが声は聴くけど姿は見たことがない。

 またその人達も「イメージが変わるから」という事でめったに表には出ず、影の存在になり切る。

 それまで、それが声優さんたちの世界でした。

 しかし、今ではアイドルと同じレベルの、容姿のキレイな声優さん達が、女優として踊って歌って華やかな衣装で舞台を駆け回る姿も珍しくなくなりました。

 もともと声優さんは歌もすごくうまいので、あとは容姿端麗にして踊りの練習を積めば、なかなかの市場形成ができる時代になりました。

 つまりお金が大きく動きます。

 芸能界という事になりますから、まずは人と人の人情で動くヤクザな世界が前提で動きます。

 舞台を見に来てくれるお客さん達のために、役者となった声優さんたちは自分を磨いて主役など重んじられる役者を得られる様に競争し、それを支えるメークさんや、マネジメントの人達、販促やスケジュール管理に関わる人たちも忙しく立ち回り、みんなやりがいを感じ潤っていました。

 現実の世界の向こう側になり切っている姿は、まさにヤクザの世界と同じな印象でした。

 ゲーム業に関わっていながら私は、それがアニメになっても、そして舞台になってあれよあれよと世の中を席巻し始めたときも、与信管理の事で頭がいっぱいで、そして与信には関わらない世界と思い込んでいて、ぼーっと、なんらこの世界を勉強せずに「なんかあるなぁ」としか思っていませんでした。

 ある日、新任の若い女性部下が「大ファンなんです!!」と打ち明けてきたのに、この世界の事を何も知らないうえ、そういう部署の人達ともぜんぜん親しくしてこなかったために、グッズや観賞券をもらってきてあげたり、気の利いたことをやって求心力も高められず・・・「つまらない上司で申訳無い」と恥ずかしさのあまり謝ってしまいたくなるくらい、熱狂的な世界が出来上がっていたのでした。

(③につづく)