倒産列伝012~華やかな世界、支えているのは③

倒産列伝

 その華やかな世界が最も良かった時代のピークが過ぎ、少し陰りが見え始めた頃だったかと思います。

 ピーク時には100年くらい前の時代背景とSFの世界を組合わせた構成が、その時のアニメ好きな若者たちの心をとらえ、派生した商品もいろいろなジャンルで登場し、どれも大ヒットしました。

 舞台化商品もシリーズになって、新たな原作が発表されるたびにアニメ映画化の次くらいのタイミングには公演され全国を巡業し、まさに定番として認知されていました。

 社会認知が末端(つまり私レベルの者)にまで進むにつれ、ミュージカル形式だったので、声優さんたちの歌って踊る姿は年末の歌番組でも目にする様になりました。

 こうなると、そろそろ下火かなと感じるタイミングです。

 一巡した、という印象でした。

 舞台に立つ俳優兼声優の皆さんも、売れて当たり前だったプレッシャーからなのか、主役級の方々などは自分の気に入らない状況になると癇癪を起こしたり、それでいて周りもご機嫌取りに必死だったため異様な雰囲気が出来上がっていた様にも思えたそうです。もっとも素人な私が聞いた話で、芸能関係では普段通りの世界だったのかもしれません。

 ライバル同士の人間関係などもすごかった様です。

 「あの人とあの人は楽屋を離さないと」や「キャスティングしてはいけない」「口もきかない」等など一見、子供じみた世界でもお金が動くのでみんな耐えている様でした。

 ポスターではとても可愛らしく笑顔の似合う人でも、ご機嫌悪いと「イスが飛んでくる」とか「人の恋人を奪った」とか話も聞かれ、与信の世界において債権回収などシビアな世界をたくさん見てきた私でも、違った意味で「怖い」と感じる世界でありました。

S氏:「一緒に同行して欲しいんですけど。」

 いきなり広い廊下で呼び止められ、敬語が気になったものの仕事なので快諾し、懸案の取引先の事務所に向かう事になりました。

 車で向かったのですが、若者の街の郊外、上級階層の人々が住まう上品な家が並びながらも入組んだ区画でギリギリの狭さの100円パーキングにやっと止めて行ける、年数もそこそこの小さなビル、その2回に事務所はありました。

 ここの面前はT字路になっていて、正面の垂直に奥に向かう直線道路は、若い警察官がアコーデオン式のバリケードを築いて守り、通せんぼする感じで塞がれていました。警官は護衛の様で片方の腕には棍棒を持ち、もう片方はバリケードのハンドル部分に手をかけ、何かが突っ込んできても、奥に住んでいる要人を守る臨戦体制になっていました。聞けばこの先には、時の総理大臣の住まいがあるとのことでした。

 

 物々しい井出達で我々を追う若い警察官の鋭い視線を受けながらビルに入ると、事務所は狭く1DKと言った感じでしょうか、奥に女性デザイナーらしき方々が3名ほど座っていました。

 製図版で傾斜のあるかっこいい机とCADが見え、ベレー帽をかぶったおしゃれな人もいました。

 聞けば、舞台を設計する機材なのだそう。

 へぇ、かっこいい。こんなところでこじんまりとおしゃれに働けたらなぁ。

 私の第一印象でした。

S氏:「社長は?」

社員:「こちらにむかってる~。もうすぐ・・・。今日は初めての方と一緒なんだね?」

 S氏はフランクな人だったので、社員の方々、特に同年代の女性とは気軽に話せる関係を構築していました。大手の部長職でもある事から大いに信頼され、好かれていたと思います。

 やがて、大人しそうで細身の社長さんが事務所に入ってこられました。

 名刺交換し、リーダー格の女性社員も同席し小さなテーブルに麦茶を出して頂き、私とS氏、先方も二名で向き合う話合いとなりました。

(④へつづく)