倒産列伝012~華やかな世界、支えているのは④

倒産列伝

社長:「例の立て替えて頂いた件ですよね?ご迷惑をおかけします。」

S氏:「ステージを押さえたら、すぐに立替分は返して頂ける約束でしたよね?」

社長:「それが、中小企業系の金融機関に融資を申し込んだのですが断られてしまいました。」

S氏:「どうすんの?」

社長:「もう一行に申込をしていますが、まだ審査中との事です。そこに確認を取っていたので、ここに来るのが遅くなってしまいました。」

S氏:「あちゃ~、困るんですよね。」

社長:「ご迷惑は重々承知ですが、この話は御社と原作者の方のつながりで、再度このタイトルを盛り上げるにここをどうしても押さえたいという意向から無理して押さえたものでしたし、年末の資金不足もあって御社のR氏に相談した結果なんですが・・・。」

S氏:「ウチが立て替えると・・・。」

社長:「そうなんです。こういう業界ですから持ちつ持たれつなのはお分かりですよね?過去にいろいろ融通を聞かせてきて、本当は御社に請求しないといけないお金も私達が逆に立替えて泣いてきたものは多いんですよ。」

S氏:「Rは管理職ですが、単なる窓口サラリーマンですよ?そんな人間関係だったんですか?」

社長:「我々の様な零細には、窓口の人でもなんでも大手の人の存在は絶大ですから。」

S氏:「ウチに立替えたというのはいくらくらいと言いたいの?」

社長:「明確な金額はもはや言えませんが、200万~300万円はありましたでしょうか・・・。」

S氏:「いまさら、それを相殺して返済するというの?」

社長:「そうできれば、融資の必要枠も多少減るので楽になるんですが・・・。」

私 :「正確に請求金額は出せますか?それとそれらが発生した時期は?」

社長:「金額は出せると思います。舞台の証明やら大道具の装置類のデザインについて当初の予定から俳優さんの要求で急遽変更になったりしたときのお金ですから。ただ、時期は5年前以前になりますでしょうか・・・。」

私 :「既にその債権は時効を迎えていますから、請求をされても相殺は難しいかと。」

社長:「そんな気はしてました。そこを何とかできませんかね?お願いします。」

 中小企業の社長として、芸能関係一筋にやってきたため法律やら会計やら多岐にわたる知識・知恵など持ち合わせるはずもなく、ただゴリ押しの「お願い」で言ってこられても、どうする事もできません。

 我々大手社員とは言えども、万能な能力などありませんし、あらゆるコンプライアンス規制で雁字搦め、公務員よりひどいかもしれません。

 それなのに大手だという事を笠に着て、中小零細に無理な要求をして内輪にええカッコしの者も多い時代でありました。

私 :「ちなみに、舞台の使用料って総額いくらかかるんでしょう?」

社長:「今回は、ざっと6~7000万円くらいでしょうか・・・。」

私 :「そんなするんですか?それで手付が3割くらい?」

S氏:「そういう相場なんだよね。舞台ってさ場所がなきゃ成り立たないし、その立地や劇場の名前で集客が大いに違ってくるんだよね。」

社長:「そうなんです。でも、そこを押さえてくれと言って来たのは御社ですよ?」

S氏:「年末だし、ウチのこの廃れてきた状態を盛返すには打ってつけの舞台、そこはしょうがないかな?」

私 :「・・・・。」

 実は私の会社は、この十年くらい前に買収されオーナーが替わりました。

 そのオーナーのご子息が成人し帝王学の一環で、この手の華やかな商売に関わる様になりました。

 自分がファンドやコンサル会社から連れてきたお気に入りの人材を要職につけ、まずは組織の活性化で企業価値を上げようと目論んだので、何とか切られない様に実力を見せたい古株などは、追い詰められ必死でした。また、オーナーのご子息は生来のお金持ちなので一流の場所で行う事は気に入られる条件にもなり、結果が高くついても内容が良ければご機嫌を損ねるリスクは少なく、現場がその様な打算で動いたのか、そのしわ寄せがこの会社にきた感じを受けました。

 S氏も、古株の一人でしたが、そのへんはマイペースだったのでどちらかというと疎まれていた感じはします。ただ、実績があったので様子を見られていたのかもしれません。

 部下の突っ走りでとばっちりという感じでした。

 私はとばっちりのとばっちりでした。

(⑤へつづく)