倒産列伝012~華やかな世界、支えているのは⑥

倒産列伝

 ええカッコしに限って、「自分の与信は大丈夫!!」と言い切ります。

 たいていの理由が「信頼関係が出来ているから」というのです。

 我々が出張ってくると「与信管理なんか必要ない」とまで返してきます。

 与信管理と関わると相手に嫌なことを聞いたり、「担保よこせ」とか嫌な交渉を強いられると自分が嫌われてしまう。第一、どこにリスクがあるのかわからない。

 これが本音だから、寄せ付けたくないのです。

 ビジネスを自分の周りのみ狭い範囲で見ている人は、その場その場の感情で行動をとり、人によっては会社の事よりも自分の事だけ優先して考え、報告の段階でつじつまを合わせようとしてきます。

 与信に関するトラブルは、いざ起りますと我々の様な専門の人には担当者のそれまでの本心が分かる様になります。

 今回、明らかに当社側が悪い。

 大手のサラリーマンが、ええカッコしで自分の事ばかりを考える、視野の狭い行動をとるとこうなる、典型的な例でありました。

 さて社長にとっては、お金が無いので舞台の手付金が払え無い事は事前に打ち明けていたので「騙された」などと言われる筋合いは無いものの、過去の泣き寝入り分を明らかにして抵抗し、このまま当社が劇場へ全額払ってくれれば助かると考えている事でしょう。

 舞台会社側も、その方が支払い能力の低い社長の会社より確実に収入を得られるので「そうすればいい」と言ってきました。

 舞台費用も高いなと思うし手付も高いので劇場が一番強気、費用が払われずとも我々が演劇の開催をあきらめても舞台会社側には手付が入っているのでリスクは最小に抑えてある。

 大手会社に同情する必要もない。

 暗黙に社長は、舞台会社をも味方につけている流れになっていました。

 「はまったな~」というか、最初から視野広く段取りしていれば回避策はあったろうに、と思うと「やっぱ人災だよな~」とつくづく思うのでした。

 制作委員会には当社の立替というスキームパターンありません。費用は全額下請けから先払いされ動員収入で清算されることになっており、禁止事項にされていないものの委員会ファンドからの補填などあり得ず、当社の個別問題として当社自身が解決しなければならないという結論になる事は明らかでした。

 ええカッコしのどうにもいかなくなった後のケツ持ちの展開に委員会幹事会社の面目丸つぶれの、実に恥ずかしいものでした。

 私が考えた今後の取り組むべき課題は

 「当社が悪いのに、先方にはお金を貸したテイにして返済してもらうスキームを考える。」

 会計ルール上必要な利息も付けて・・・。

 私にとっては納得感0でしたが、前金が当たり前という固定観念の強かった部署に今後、与信管理の導入が必要であることが立証され周知もされたので、一見不毛な債権回収を手伝う事で彼らの、私への求心力を高めて頂ける期待はあり、「やるか~」と考えたのでした。

 私の債権回収のやり方は、資金の厳しい債務者の場合は返済原資を創出してあげる回収方法でした。

 どちらかというと救済型のホワイトな手法です。

 この方法は、まったくお金のない先に有効で、仕事を作ってあげてその利益から返済に充てるというもので、お金は無いけれど腕前の良い人(仕事の出来る人)と長く活かして付き合い、お互いに頼って利用しあう関係を作っていけるうえ、感謝もしてもらえる点が良かったのですが、お互い取組む目的を理解しあい齟齬が起きて感情的にならぬ様に丁寧に交渉し、信頼関係を構築・維持していくことが必要なことや、債務者のために返済原資を生み出せるビジネスを作ってあげたりすることが難儀な点もあり、また債務者が他力本願で自己判断力のない人だとうまくいかない欠点もあり、さらには司法から見て奴隷契約を強いていると捉えられると当社がリピテーションリスクをも負ってしまうところがあり、いわば両刃なものでもありました。

 しかも当社の大ヘマなのに、面目を維持できる様にするオプションを付けなければならないのは最悪です。社長が開き直って「出るとこ出るぞ」なんてなると、余計に面倒くさい事になった事でしょう。

 でも私は内心、正直に「この会社は助けてあげたい」そう思うのでした。

(⑦につづく)