私が考えたのは、大手の面子を守る方法であったかもしれません。
でも、私なりに頭を絞ったのですが、あのやり方しか思い浮かばなかったのです。
しかし、「大手に騙されてはいけない」とか、「良い様に利用されている」とか、あれこれアドバイスと称して横槍をいれてくる連中も社長の方にいましたから彼の心もブレやすかった事でしょう。
お互いに誠実にこなせる、いたってシンプルな方法として考え、当社側の担当部門には、ほぼ強制として、先方には提案として理解と合意を求めるやり方で臨んだのでした。
当社側の関係者は、不満もあったかもしれませんが解決できるのは私しかいないという事でもあったので、従う意向を示しました。
稟議を起案し、提案した方法を経営にも理解してもらうのは彼らの仕事としてもらいました。法務部は、弁護士免許を持ちながらも経験の少ない連中はこのやり方に懐疑的でしたが、ベテランは理解を示してくれて進める様、支持してくれました。
経営の理解を得て決裁を取得した私達は、部長のS氏、課長のF氏と三人で先方の事務所に伺いました。
今回も社長はお出かけ中で待たされました。その間、S氏と親しい舞台設計デザイナーの一人、Q氏がやってきて、こう言いました。
Q氏:「ウチって、あんまり状況良く無いんだよね?」
S氏:「…そんな事ないんじゃない?」
Q氏:「このままじゃぁ退職金も出ないんじゃ無いかなぁ」
S氏:「仕事多くなってこれからもっと忙しくなるよ。」
Q:「そうだと良いけど…」
一見、他愛もない会話でした。
そして、社長がやってきて席についたので話し合いを始めました。
まずは、S氏の持参した今回のお願いしたい仕事の工程を説明し、そして今期中に実施したい次のタイトルの説明、更には中期計画の説明を行いました。
社長に、なるべく将来に期待をもってもらうこと、当社に対する求心力を持ってもらう様に話す事が大事として、私が提案した事でした。
最初は眉唾ものとして聞いていました社長でしたが、次第に我々が真面目に話すので信じてくれそうな雰囲気になってきました。
自らの保身のため、彼(社長)に不信感を抱かせる事実を作り、逃げたええカッコしぃは、S氏が退職に追い込みました。自分でも分かっていた様で逃げる様に去って行ったとの事です。そのうえで、今後も長く付き合っていきたい誠意としてけじめをつけた旨をS氏が話し、あくまでも表面上は“返済”となる事を承知してもらい、具体案の説明役として私にバトンタッチするという流れでした。
私:「大変恐縮ですが、この約定返済のスケジュールでご検討いただけませんか?」
簡単に説明しますと、だいたい定期的に毎月20万円程を返して頂く債務弁済契約を締結し、そしてこちらが用意した舞台関係の受託仕事の調子(利益のあがりよう)によって臨時の前倒し返済をして頂く覚書を、都度交わすというストーリーでした。
金利は格安で設定し、我々は利息で儲ける仕事ではない事をアピール、今後も当社に対する求心力を持って頂き、仕事のモチベーションを上げて頂く事を意図したもので、分かり易くしたつもりでした。
能力を高く評価しているこちらの誠意を分かって欲しかったのです。
そして、この後が我々にとって最大の山場として待っていました。
上場がゆえ、ガバナンスとしてこの取組みの正当性を証明する必要があったのです。
もしも外部の監査法人などのチェックマンなら「先方に、こんな優位な条件を設定したのは?」とか
「そもそも与信的にダメな先に長期の弁済を負わせる理由は?」などなど、たくさんの疑問が湧いてくるはずです。
それに対し、理由が「世話になっているから」「迷惑かけたから」「可哀そうだから」は全く通用しません。
裏事情は関係なく、正当な商取引の一環であったという事の証跡を出せとなるだけなのです。
株主などの正当な利害関係者に迷惑がかかる懸念がある行為だし、経営にも迷惑が掛かります。
ええカッコしぃのせいで、やっかいな問題が残り手間がかかりました。
(⑧へつづく)