与信管理の実務では、当然に自分の属する会社よりも規模や年商、社会的地位の高い企業を与信する機会が多くあります。
今でもそんな企業相手には「審査の必要なし」としてスルーしてしまう審査担当もいる事でしょう。
一方で与信管理部門の意見が強い業界として、金融機関系の企業や商社が代表に挙げられます。
なかでも金融機関系は、全社が与信管理部門と言っても過言ではありません。
金融機関系とはいわゆる都市銀行、大手地銀、証券会社、保険会社などがそうですが、それらの系列会社もたくさんあります。
世間一般の常識として、彼らは経済の食物連鎖の頂点に立つべき者であり、自身の存続が危ぶまれることなど微塵も考えられず、更には彼らの与信判断が間違うはずがなく、彼らの動きを見ていれば自社には与信管理は要らないとまで考える企業経営者もいました。
これから述べますのは、今では信じられない事かもしれませんが、日本国内の企業間信用と言う分野で、そんな彼らも含め、だれも信用できなくなった時期がありました。
1996年から2003年頃まで続いたそれを、私はバブルの清算期と呼んでいます。
その期間は、前述の様な社会的信用の頂点であった彼らが、多くの不良債権を抱えたため、信用が地に落ち、その系列企業には特に細心の注意をはらわなくてはならなくなったのでした。
●鬼の形相、仁王立ちでお出迎え
あの日はおなかを壊してしまっていて、というか・・・ヤな風邪菌が腸に入込んでしまったのでしょう、急な差込みが何度も起きて微熱もあって体調最悪な状況でありました。
寒空の中、周辺はただっぴろく遮るものが無い台地にある有料駐車場を待ち合わせ場所にして、営業マンと共に車の中に居ましたら、定刻通りにこちらに歩いてくる人がいました。
損害保険会社の取引信用保険の担当者です。
唯一私を援護してくれる、金融機関側の人でした。
事の発端は、某地銀系リース会社とのトラブルでした。
バブル期の後半、それまでは資産を自分の所有として購入し支払はローンを組んでキャッシュアウトの軽減や節税にするという考え方が大半だったものが、次第に景気の先行きが怪しくなり資産の持ち方に合理的な考え方もでてきて、自分で所有しない「リース」という手法を利用する人が増えてきました。
私は与信する際、リース会社には事業会社系と、金融機関系と大きく2種類あると分けていました。
事業会社系とは大手商社、メーカーなどの製造業の系列、金融系とは銀行、証券、保険、ノンバンク系列です。
どの業界でもバブルに踊った企業は山ほどありましたが、リース会社は親会社の不良資産や不良債権の「掃きだめ」と言われていて、バブルがはじけたあと、与信上危険視されるところが多く、特に金融機関系はヤバいとされていました。
リース会社は基本、リースと言うシステムの元祖という企業によれば、その企業を含め事業会社系が主流だったのですが、“うまい商売”だとみるや、金融機関系も参入してきたとのことでした。
そして後から参入してきた彼らは、食物連鎖の上に立つ者のプライドか奢りなのか、事業会社側の決めたリース取引の基本に則らず、肝心なルールを無視していたため当社とはトラブルが多かったのです。
なかでも特に経営難の金融機関系リース会社はタチが悪かったのです。
発端は、ある日突然そのリース会社から取引先とリース会社との契約通知が届いた事でした。
当社の営業担当が、取引先の支払いリストから高額商品が除かれ、それらがリース物件として勝手に扱われてしまっていた事でした。
私 :「聞いてなかったのか?」
営業:「ぜんぜん知りませんでした。何にも聞いていません。」
私 :「まいったな・・・。」
私が困惑したのは当時、経営難だった当社の建直しに大手都市銀から出向されてきた専務が、“取引してはならない”金融機関と、その系列リース会社やノンバンクなどのリストを挙げた厳しい通達があり、その中に今回の大手地方銀行系リース会社が入っていた事でした。
営業側の役員は「簡易の信用調査書を添えればいいんじゃないの?」とまでのんきなことを言ってきましたが、事はそんなにたやすい事ではありませんでした。
私 :「信用調査の点数は40点でAlarmです。」
役員:「決算書は?」
私 :「2年前までは開示しておりましたが、直近はやめてます。調査書の推定決算書では債務超過で
Alarmです。」
役員:「保険会社や保証会社に相談してみたら・・・?」
私 :「実は都市銀系保証会社にうかがったのですが・・・やはりNGとのことでした。」
実は、当時の考え方では、銀行系リース会社に保全をするなどというのは誰も考えない事でした。なので私が打診した都市銀行系の保証会社担当は鼻で笑って、
保証:「とりあえずお付き合いだから確認してみるよ。」
という態度で電話を切ったのですが、数時間後に
保証:「君の言う通りだよ、これは断らないとまずい。当然保証はできない。」
と言うのでした。
保証:「長年、銀行マンとしてやってきたが実に情けない、君の会社はもちろん、そして金融機関の同業としてこのリース会社を応援する意味で保証してやりたいが、この体たらくではリスクを引受ける承認は取れない。」
彼自身も、ここの評価がこんなに落ちているなんて・・・にわかに信じられないという態度に変わったのでした。
その状況を営業役員に報告すると
役員:「銀行が銀行(系列)の信用をできないなんて・・・大変な時代になってきたな。」
私 :「先方(今回のリース会社)は、本来のリース取引のルールを守らず、取引先との契約だけでサプライヤー(売主)の当社をないがしろにしています。当社が与信上感知できない様に故意に行動をとったと言っても過言ではありません。当社に見積もり書の依頼も無く、勝手に注文書と請書を送ってきたようです。」
私も、この厄介な展開を招いた彼らに若干の憤りを覚えていたので、語気が強くなってしまいました。
私 :「ここは思い切って、先方と直に話してみましょう。」
当社も経営難だし与信に余裕がないのだから、ダメもとで行ってみよう。
何事も経験だ、そう考えたのでした。
役員:「長銀の時の様には、なりたくないもんな・・・。」
(②へつづく)