世の中でも大事としてニュースになった日本長期信用銀行の破綻、私の会社も当時お付き合いがありました。
バブル後期、元政府系銀行ということでヒラの融資担当でも当社迎賓用の車止めにハイヤーを止め乗り込んできて、商談が終わるまでそのハイヤーを待たしていました。
当時、当社の役員だった方の回顧によれば、アタッシュケースに億からの札束を入れて融資するからと押貸しに来ていたのだそうです。
そんな彼らが破綻しているのしていないの騒がれ始めたころ、大口の取引先から長銀系列であった大手リース会社とリース契約により商品を仕入れたい旨連絡がありました。
当時、このリース会社の与信評価は必ずしも良くはありませんでしたが、天下の長銀系列という事で審査スルーされていました。そのとき私は、債権や回収の担当だったので審査に直接関わっていませんでしたが、スルーされることに違和感を憶えることはなかった記憶です。
ところが当時、当社に大手都市銀行が専務職として送り込んできた人物が、これに「待った」をかけたのでした。
「待った」と言うよりは、頭ごなしの「NG」でした。
困るのは顧客と板挟みになる営業の現場です。
数字が欲しいので、客とリース会社の味方をしてしまい納得しません。
同時に、そのリース会社側の“圧(アツ)”もすごかったのです。
なにしろ億を超える取引でしたから・・・、でも当社の営業側役員が説得しようと直談判しに行きましたが、専務も頑として首を縦に振らず追い返えされました。
次なる手として営業は「我々の手に負えない」として、リース会社の役員を直接殴りこませようという強烈な圧を仕掛けてきたのでした。
「この様な屈辱は初めてだと、大変ご立腹だ。」とのお土産言葉も添えて・・・。
ところがある日突然、アポイントがキャンセルとなりました。
その後は当時を知る人はご存じのとおり、テレビや新聞に長銀の破綻、系列会社の連鎖倒産という一面記事が並び、その中に筆頭として大手リース会社が入っていて、調査会社から正式な情報として彼らは会社更生を申立てたとの連絡が入ってきたのでした。
あっけなく、あのすごい圧は消えました。
そして社内では銀行から送り込まれた当社側専務の判断が正しかったことになったのです。
その専務は「それ見た事か」とばかりに、その勢いで冒頭で述べた“取引をしてはならない金融機関リスト”を作成し、我々与信実務担当部門に内規として通達してきたのでした。
リストにはよく聞く都市銀行、証券会社、保険会社がつづき補足としてそれらの系列会社、主要融資先ノンバンクなどが列記されていました。
どれも、当社なんかよりも社会的にも、政治的にも、そして経済的実力も上とされる連中でした。
「そんな無茶な。」と上司の一言が、今でも耳に残ります。
この専務は、母行に一日も早く帰任する事が目的だったのでしょう、今回の実績を強烈にアピールしていた記憶です。大手都市銀の直系有名ノンバンクや信販会社の代表(社長)を歴任したのに、なぜか当社には専務で出向、評価が下がった感があったので、ひょっとしてバブル後のなんらか問題を抱え、実質左遷されてきていたのかもしれません。
とにかく彼は彼で躍起だったと思われますが、なにしろお尻に火が付いた優秀で強力な政治力を持つ人たちが世間そこかしこにいて引っ掻き回していたので、世の中はカオス状態となっていたのでした。
話を元に戻します。
駐車場で待ち合わせた私たちは、約束の時間に間に合う様にリース会社に向かいました。
首都圏の地方都市とはいえ、その駐車場はただっ広く寒空の台地にあって、木枯らしも吹いて差込む調子の悪い私の腹を余計に刺激するのでした。
見れば、同行する保険会社のM氏の表情も冴えません。
みんなでトボトボと背中を丸めて歩いて5分ほどしたら、大きな看板が見えてきました。
それは一般的によく利用する地銀の支店そのもので、古い5階建てのテナントビルでした。
そこに50mほど近づくと正面に白髪の紳士が仁王立ちで立っていました。
「うわっヤバい顔・・・絶対関係者だよね?」なんて言いながら、いよいよ近づくとその鬼の形相が上から覆いかぶさるようなオーラを放ち一層我々を威嚇しているのが分かりました。
その紳士から先に声をかけてきました。
「あなた方、アポイントを頂いた方々かな?」
私が「そうだ」と応えると、「では案内する」と言って直々にエスコートを受けました。
紳士:「遠くからわざわざご足労をかけしましたな。」
今風に言うと初対面なのに“上から”のものの言いよう、当時は銀行のお偉いさんなら、若造たちを前にして不思議な態度ではありませんでした。
M氏:「こりゃいきなり、ただもんじゃなさそうなのが出てきましたね。」
私はそう囁かれましたが、お腹の差込の方が気になるのと緊張で、彼の問いかけを相槌で受流すのが精一杯でした。
その紳士に案内され銀行の入口の横にあったテナントの通用口に入って1階~3階「A銀行D支店」と打ってあるフロア表示銘の上に、4階5階にその銀行の名を冠した「A銀行リース」とありました。
4階以上に行くのだなと思われたところ、その紳士が押したエレベーターのボタンは3階。
私:「あれ?」とわざと声を出してみました。
(③へつづく)