倒産列伝013~バブル清算期の記憶「鬼の形相、仁王立ちでお出迎え」③

倒産列伝

 通されたフロアに、もっと驚きました。

 3階は銀行のフロアだったはずで、支店長とか二人目の鬼にお出迎えされるのかと思ったのですが、大きく拍子抜けしました。

 なんとそのフロアには誰もいなかったのです。つまり、もぬけの殻・・・。

と言えば大袈裟ですが、法人融資の窓口だったのでしょうかよくある銀行のオフィスレイアウトにある長いカウンターに加え、その前の顧客の待機スペースには順番待ち用のソファがあり、その背後にパーテーションで区切られた応接セットが整然と並んでいました。

 でも、行員が一人もいないのです。

私 :「この時間は営業しているのでは・・・?」 と恐る恐る聞いてみました。

 よく見ると、カウンターの奥の机に書類が一枚もありません。銀行システム用のPCも見当たりませんでした。

鬼 :「あぁ、銀行は引越の準備をしていましてなぁ・・・子会社の当社が応接に使ってるんですわ。」

 そして数あるパーテーションの中で、景色のよい位置にある明るい応接に通されました。

 名刺交換をさせて頂き、その鬼の肩書を見ましたらリース会社の常務取締役と書いてありました。

 聞いてもいないのに彼は開口一番

鬼 :「私は20年以上、母体のA銀行で取締役をしていました。また現場にいた頃は、法人営業と審査が専門でしてねぇ。」

 いかにも、最初にマウントを取ろうとしているのが分かりました。

 彼の能書きにうなずいていると最後の〆でしょうか、少し語気を強めて

鬼 :「私の銀行マン人生いろいろありましたけれども、こんなの前代未聞だ。」

 しばらくしますと、小太りで頭の禿げた腕まくりの男性がやってきました。

 名刺交換すると、リース会社の審査部長の肩書でした。

「常務ぅ、お待たせしましたぁ。この人たちですかぁ?ウチになんくせ付けてきた人ぉ?」

 またキャラの濃いのが出てきたなと言う感じで、私の印象としてこいつは審査部長と言うよりこの常務の太鼓持ちと言ったほうが良いキャラクターでした。

 私は嫌な雰囲気になりつつあったのとお腹の差込が辛いので、早々に終わらせたく本題に話を持っていきましたところ・・・

鬼 :「ウチはね、銀行から降りてきた案件、つまり銀行が貸せない相手に対してわざわざリスクをしょってリースを組むんだよ。」

太鼓:「あなた方の業界の様な不安定な先には、なかなか融資できませんからねぇ。」

鬼 :「おたくが扱っている案件も、面倒な先と聞いているよ。そんな銀行が普段貸せない先にもウチがリスクを背負うって言う事なんですよ。いいですか?」

 「お言葉ですが・・・。」私は、言い返しました。

私 :「それはこの度の案件であるユーザーにあたるE社さんのことをおっしゃってますか?」

 鬼はすかさず太鼓持ちに目配せをすると、太鼓持ちがうなずきました。

私 :「当社には審査部と言う組織はないので審査マンという肩書もありませんが、私が与信管理者として取引先の審査をさせて頂いております。いろいろご教示頂きたいのですが、当社の長年の取引先でもあるE社さんは信用調査ではB格付であり、決算分析システムではA評価でした。正直、ゲーム会社ではあっても通常の企業と比較して優秀な方だと考え、当社は高い格付の取引先としているのですが、間違いでしょうか?当社のメインバンクの都市銀行も同じ格付と聞いております。御社や母体の銀行さんの格付が、都市銀行のそれを上回る精緻な評価法がないかぎり、あの会社を“悪い会社”と判定しないはずですが・・・。」

 私は、腹が差込むのを我慢しながらも取引先に対する失礼な物言いが頭に来ましたので、つい言い放ったのです。

 すると鬼が・・・

鬼 :「いやいやいやいや~、そういう意味では無くてね。リース取引の一般的な話をしているの。」

私 :「は?」

太鼓:「聞こえました?常務は違うと言ってるんですよ?これだから、経営難の企業は・・・」

 私は、この太鼓持ちにも頭来たので言いました。

私 :「上場しているので当社が経営難であることは周知の事と思います。だからこそ今回、直接の対話を申込んだのです。つまり御社に対する債権リスクを当社が負うのは困難だと。E社さんの回収条件は〆後30日後の現金全額振込、御社は〆後120日後の全額手形1本です。これは端的に申し上げますとなぜ経営難の当社が見積もりのプロセスも踏まず、一方的に注文書を送り付けてきた御社に、わざわざ債権を振替え、しかも不利な回収条件を受けなければならないのでしょうか?」

鬼 :「いーやいやいやいや~、ははは。それが当社に来られた理由かな?」

私 :「そもそも、わかっておいでかと。」

鬼 :「何度も言うけど当社はね、銀行と一体なんだよ。銀行の方針には逆らえないんだ。その親会社である銀行も含めて当グループの信用が無いってわけ?」

私 :「信用がないわけではありません。社会的な面では十分な信用がおありだと思うのですが、しかしながら、御社の今の信用調査の判定はD、決算書は非公開になっており推定では債務超過となっております。この事実の確認をさせて頂き、私の横にいます同じ金融機関である保険会社の取引信用保険の査定も受けて頂きたいのです。」

太鼓:「なんでウチだけに来るの?首都圏の大手地銀は、他にもあるじゃない?確か御社は融資を受けていたよね?与信止めでも食らってるの?あちらも皆経営難では?あっちに行った方が良いんじゃないの?」

私 :「確かに融資は受けていますが、この件と関係ありません。私は、目の前の案件の課題だけを解消に参っております。何様だとか、あっちがどうとか、その様な考えなどまったくありません。」

 太鼓持ちが何か言いかけたのですが、鬼が制して急に切ない顔になり、こう言いました。

鬼 :「そんなにウチの状況は悪いの?」

私 :「ありていに言いますとそういう事になります。だから来たんです!!」

(④へつづく)