鬼 :「世間では、次の破綻銀行はウチではないか?と持ちきりだね。」
「自覚していたんだ」と私は思いました。
地方都市とは言え首都圏の大都市、その代表的地方銀行は都市銀並みの権威を誇っていましたが、バブルに踊った程度もそれなりで、多額の不良債権を抱えて苦しんでいたのでした。
苦肉の策として、融資審査を通せなかったり銀行側に都合の悪い案件は、系列のリース会社を経由するというこれまた一般の事業会社ではよろしくない禁じ手とされる与信飛ばしを多用していたため、このリース会社も掃きだめと言われる様になっていたのです。
A銀行は、まさにその破綻プロセスを辿っていたため、詳しいルートの噂では、次に(国から)死の宣告をされるのはここだとばかりになっていたのです。
私 :「はい、長銀のときの反省から、銀行系のリース会社さんの与信も見る必要がありまして。」
私がそういうと、鬼は
鬼 :「実はね、ここの支店も引っ越しではなく、無くなるんだよね。」
時代的にもそうだったし、前段の情報も把握していたので特に驚く事ではありませんでした。
当時は、あちこちで銀行の支店が消えていく時代になっていたのです。
鬼 :「積極的に余剰行員を引受けたりしてね、案件も銀行が引受けないというより引受けられなくなったのもあるが、当社も案件を回してもらってる状況なんだ。」
私 :「さきほど、御社は“銀行と一体なんだ”と仰いましたが、銀行がシロと言えばシロ、クロと言えばクロ、そういうことでしょうか?一蓮托生だと。」
黙って彼はうなずきました。
私 :「銀行系列と仰いますが、銀行の出資は5%ですよね?規制のためとはいえ子会社とはならない。しかし世間では御社がA銀行の子会社であることは周知の事実であり、破綻懸念銀行とは言え一流銀行ですから、万が一御社が倒産した場合、親会社が保証してくれるというのは無いのでしょうか?やはり建前から“出資の範囲で責任は負わない”とかで、切り捨てられるのでしょうか?」
鬼 :「ずいぶんな言い様だね。そうはならない!!・・・と信じたい。ただしその部分についてはノーコメントだ。とにかく・・・ここは私の面子を立ててくれないだろうか?」
私 :「同じ金融機関として保険会社さんはどう評価されますか?」
私は、同行してくれた当社が取引信用保険を購入している保険会社の担当者M氏を見ました。当時の私よりも若い方で、会社への忠誠心もありながら顧客志向も強く今回の私の依頼に応じて同行してきてくれた誠実な方でした。
M氏:「私は、リスクの引受人として公正な立場ですが、報道や噂のとおりと考えますとなかなか引き受けは難しい。可能であれば銀行を含めて資料を頂きたいところですが・・・。」
鬼 :「銀行の決算資料を見ても分かるの?貸借対照表は一般事業会社と逆だし、それに君もお分かりの様に銀行は潰せないよね?もちろん、国が我々の様な一地方銀行を潰しにかけるべく法を改訂して破綻宣告をするというのは考えられることだが。」
M氏:「・・・・」
やはり地銀とは言え、大手行の役員経験者に言われてしまうと、大手財閥系保険会社とは言え、同じ金融機関のハシクレとして反論するのは精神的に重かったようでM氏は黙ってしまいました。
私 :「でも・・・・」
と私は、相手にペースを握られまいと口を挟みました。
私 :「リース会社は違いますよね?銀行系でも倒産します。私は電話でありますが、大手信託銀行系リース会社さんに対し与信止めの連絡をしました。その時、そこの部長さんが電話に出てきて“与信枠の停止は受け止める、でも頼むから口座を停止するのは止めて欲しい”と嘆願されました。信用不安が出ている事は認めるし当社がリスクを引受けられない事も理解できる、とのことでした。ただ口座まで停止されるのはプライドが許さない。せめて前金取引だけでも許可してくれないか?絶対復活するから。とのことでした。」
当時私は、金融機関の取引停止リストに載った3年以上取引が発生していないリース会社にはすべて与信枠を停止する旨の連絡をするよう会社に命ぜられたため、こんなやりとりをたくさんしていたのでした。
今を思えば、メンタル部分も大いに鍛えられたと思います。
電話口に出る金融マンとの会話で黄昏や矜持に触れ、いろいろ学べた時代でもありました。
それはさておき与信管理の一般論としても、しばらくご無沙汰の取引先ほど突然に債権が発生したら、それほど危険なものはありませんでした。
最後の取引が数年前で、その当時経営が良好だったとしても取引の無い知らぬ間に経営が悪化し、そして彼らが生き残るために無理やり取引に誘ってきて、久しぶりのおいしい話にしっぽを振って取引し債権を発生させてしまい、貸倒被害に遭うというのはいまでも珍しくないことです。
目の前にいるこのA銀行系リース会社も3年ではありませんが約1年半取引が無く、突然債権が発生したパターンでした。
そう、いまと違うのは金融機関系列のリース会社等に対しても、ご無沙汰だったら用心しなければならなくなっていたという事で、大変な時代だったのです。
鬼 :「あの信託銀行系リース会社か・・・知人がいたよ。」
私 :「では、そこがその後どうなったかご存じですよね?」
そう、私が連絡したわずか1週間後に倒産したのでした。
(⑤へ続く)