倒産列伝014~バブル清算期の記憶2「独自の防衛策」⑩

倒産列伝

 契約によると彼らの入金は、月中旬の15日だったと記憶しております。

 当社が、債権を移動させてから請求書を発行して、それを彼らが認識後の10日後に入金であったかと。

 その間にユーザー会社が倒産して大変なことになったという事ですが、F氏らと話し合ったあれから何の意思表示も無くなったE社、そしてとうとう期日になりましたが、「入金が無い!!」と営業側から焦りの連絡がありました。

 「大手のメガバンク系列がこんなことをするなんて・・・」と思いましたが、彼らも一企業でありリース契約としてその債権が貸倒れになることが決まっているのに、みすみすサプライヤーに支払うことはプライドもあるし「したくない」と考えるはずで、それは仕方ないにしても大企業なので部署間の面子などもあり意思決定が進まず揉めていた可能性もありました。

 とはいえ、そんなの当社の知った事ではありません。

 先方の社内事情がどうであろうが、E社の支払いが遅延したことを先方に認識させ、督促を行う必要があると考え、代表して私がE社側の責任者宛てに電話し、督促の旨を伝える事に致しました。

私 :「E社営業部長様でしょうか?」

E社:「はい、そうですが。」

私 :「D社の件で、リース契約のサプライヤーであります(実際は社名を名乗っています)。」

E社:「いかがいたしましたか?」

私 :「本日、お支払予定日として御社から着金があるはずですが、確認とれないのです。」

E社:「あの件なら、しばらく検討が長引いてまして・・もう少しお時間を頂けないでしょうか?」

私 :「既に期日が到来しております。私の権限で20日までお待ちできますが、それでもお支払いが無ければ遅延損害金を請求せざるを得ませんが・・・。」

E社:「わかりました・・・。至急決裁をとり、送金をもって回答とさせて頂きます。」

 リース会社に・・・ましてやメガバンク系金融グループに対し、いちメーカーが「支払の督促」など行うなんてめったにない事だったでしょう。

 彼ら自身、「まさか督促してくるとは」「遅延損害金を要求してくるとは」と、面食らった様な印象でありました。

 E社の営業部長はおそらく「自分の責任になる」に悩んで、支払いの申請を止めていたのかもしれません。

 この件で最も面子の辛くなるのはこの営業部長さんだったと思ったので、ダイレクトコールしたところ的中したのでしょう、翌朝に約3000万円が振込まれたのでした。

 今回イザコザなくリース会社に移動した債権が当社に戻ってきて貸し倒れにならなかったことは、あの制度に助けられたと言ってよかったと思います。

 関係する面々は皆、安堵の表情を浮かべておりました。

 Y先生からも「良かったですね」と言葉を掛けられ「こんなこともあるんですね。」と感心され、不効率だけで制度の評価はできない、先人の知恵や経験と言うものは大いに尊重されるべきで、その糧となっている“自社が受けた屈辱の歴史も忘れてはならない”という、まさに教訓の上に存在する「宝物だ」と評されました。

この一件で、あれからC役員はバツが悪そうに私に「よかったね~。あの制度のおかげだね~。」などと軽いノリの労い言葉を掛けてきました。

 皮肉なんだか、感心されているのかわからない、でも目は笑っていませんでした。

 この制度に一番助けられたのはこの人のはずで、実際この制度に対してはおろか、その後立て続けに貸倒事故が散発しましたので彼自身、貸倒の恐ろしさを販売事業の総責任者としてグループトップからのプレッシャーを相当に受け、自分ではどうする事も出来ず狼狽え右も左も分からなくなり、回収の難しさを体感したことから与信管理の存在そのものにもケチをつけてくる事は無くなりました。

 私はC役員から再び会議に呼ばれる様になり、その席で私に向かって「いないよりマシ!!」などという言葉をぶつけてくる事も無くなったのでした。

 その後C役員はめぼしい実績を上げられず結局、役員の待遇も役職も解かれ、代わりに内外の信認厚いB役員が昇格し、まあ順当な組織構成となりました。

 そしてC役員はしばらく後に会社を辞めました。

 人柄の悪い人ではありませんでしたが、その後はあまり良くない経営者に雇われた様で悪の手先とな

ったため評判を著しく落としてしまい、そしてさらにその後は去就もまったく聞こえなくなったのでした。

【与信管理実務者のあとがき(独り言)】                                  さて今回は、長い長い時間を跨いだエピソードでした。

 金融機関を交えたトラブルは難しい用語や特殊で独特な表現が入るので、難しく読みにくい点があったかと思います。

 発端としてバブルの清算期からはじまり、その時に受けた屈辱から雁字搦めの制度が生まれ、その番人となった私(与信管理者)は社内で煙たがられる存在になり、歴史を知らない外部より来た役員にあやうく力を削がれてこの防衛策の存続も危うくなった、そんなところにD社の倒産を機に再びリース会社との対決が始まり、皮肉にもこの独自の防衛策が機能し会社が守ら私の身も守られた。

 というものでした。

 このエピソードを通じて語りたくなることですが

 大企業でよく「効率化」と言う名目で廃止になる「過去の遺物」的面倒な制度というものはたくさんあるかと思います。

 事業や管理系トップが変わった時、法改正などで監査部門が反応した時などなど。

 自分の承認欲求を満たさんと「私の提案で何か変えたい」と言う雰囲気を作る役員などは、過去の悪い事例を説明し「精度はそのまま」で残し、現代に見合った効率化を考える事を提案することで説得することは可能かと思いますが、中には「要即時改善だ」と自己顕示欲が強く功を急ぐ人物が出てくると一層面倒な目に合うかと思います。

 またニュースになった某地方銀行で起きた事件の様に、営業系役員が審査マンを排除し自分に都合の良い与信管理体制を作り、不正や貸倒増加を招くという、とにかく与信管理者は邪魔者扱いされる事例はよくありその結果、会社が奈落の底に落ちてしまうという話も耳にします。

 なんだかんだ与信管理に関わるルールは相手(主に取引先)あっての事なので、将来の商売関係を考えると決め打ち一つで判断するわけにはいきません。

 理論優先よりも事例を踏まえながら実務に合わせ、丁寧に制度化していくのが一番ふさわしいのですが、貸倒など誰もが一律に経験するわけでもないので、すべてに納得感をもたらすことも難しい話です。

 与信管理の実務を行う者は、

 「なぜこの制度があるのか」「そのきっかけの事例は何か」を忙しいトップに求められたとき端的に説明でき即時に理解して頂けるよう、常にまとめておき説得力を持っておく必要があるかと考えます。

 しかしながら同時に将来に向けて常に「精度はそのままに効率化」した場合を考えておき、検証しておく、そしてトップから効率化を問われたらすぐ応えられる様にしておく事も大事だとも思うのです。

 社内に答えが見つからなければ、社外にでて同じ様に苦労している与信管理の実務担当者間で知恵を出し合うというのも一考かと考えます。

 立場や業界が違えど、思わぬ出会いによりヒントが出てくる事もあるかと思います。

 (おわり)