倒産列伝014~バブル清算期の記憶2「独自の防衛策」②

倒産列伝

 その事件、当時の私の会社では起こるべくして起こったものでした。

 絶頂から急降下し赤字が数年続いていた状態で、市場から求心力を無くした代表は副会長に退いて、異業種業界でプリンスと称されていた人物を招致したのですが、その後もご自身の権威は大いに残し、むしろ身軽になったためか得意分野に降りてきて、より一層アクティブな動きを見せる様になったのでした。

 カリスマ経営者でしたから、その彼が「クロ」と言うなら現場も「黒」となり、「シロ」と言えば「白」になってしまい、与信マインドは元々強い人物でしたが、トップの肩書が取れたためか、元の権力を取り戻す方が優先だったのか、長い権力生活と高齢で「取入る者」を見抜けなくなってしまっていたのか、よりによって業界内で灰色と噂の高かかったベンチャー企業C社と仲良くなってしまったのでした。

 灰色とは、反社会的勢力の連中と「付き合いがある」という噂です。

 私は、当時はまだ営業部門から管理部門に転じたばかりのヒラで、債権回収や経理関係を中心に言わば“学び中”だったのですが、収集していた営業仕込みの情報は最新かつ確かだったので、上司に「彼らC社は反社との関りが噂されている」と訴えたのですが、トップの勅命で出向もして資金繰支援を兼任していた、管理畑で現場経験の少ない上司は「どうせチンピラの類だろ?しかも噂だろ?」と取合ってくれないどころか、更に関係が増え続ける様子に業を煮やし取引制限を進言する私に「副会長がやっている事だから・・・」と極めてサラリーマン的な言い方で「仕方ないだろ?」言うものですから頭に血が上った若い私は「無責任だ!!」と食って掛かってしまいました。

 このエピソードは、「倒産列伝004~悪の忍び寄りと与信管理②」で取り上げております。

 私はC社の代表が、当社副会長と会いそして事業部のトップ達と華やかに会談した一方で、裏手の寂しい非常階段の踊り場では携帯で自分の会社の経理担当に資金繰りの話をしながら大きなため息をついているところを目撃してしまいました。

 「この人、元々は色白の人だったよな・・・いよいよだな。」

 私の固定観念ではありますが資金繰りの厳しい人は皆、赤ら顔に見えるのです。

 それどころか毎晩の金策のための酒とゴルフとタバコも加わってなのか、小じわと土気色が加わったどす黒い赤ら顔になっていたのでした。

 

 そう思っていた矢先、私に対し「会社のオーナーが個人的に出資した会社へ出向せよ」との辞令が発令されました。

 上司にとって私は食って掛かったせいもあってか、痛いところを突いてくる目の上のたん瘤だったのでしょう。

 過去のエピソードでも述べましたが、私が帰任した時、C社が倒産し広域反社組織のエンブレムをかたどった人物がC社の内部を闊歩していたと上司自身から打ち明けられましたが、思い返すと真実に近い事を知っている私が邪魔そのものだったのかもしれません。

 あの時は、「まさかね」と思いつつ辞令に従い、「態度の悪い自分が悪かった」とも考えたものですが上司の本心は違い、やはり最悪のものだったのです。

 この様に、反社は目に目に見えない威圧と恐怖で、それらを抱く人間に無言の指図を醸して操り、相互不信を招かせ正しい者を排除し関係を破壊していくのだ、と実感した時でもありました。

 C社はその後、業績を続伸させ社会からの注目度も増していく半面、業界内の黒い噂も濃くなってきました。同社の従業員らも、上層は銀座や歌舞伎町のキャバクラに入りびたり、ママに何かある度に派手で大きな花輪を出したり、独身男性従業員は、当時有名だった「ノーパンしゃぶしゃぶ」に行くようになり、またその取引先を接待をする時にもノーパンしゃぶしゃぶを使う様になり、内勤の女性社員たちも一流料亭などで高額料理を楽しむ様になり、すべてが交際費で落とされているという噂が流れる様になっていました。

 でも世の中はまだ、バブルの後遺症で贅沢な遊行に違和感を持つ事もなく受け入れ、これが社内モラルの崩壊とした経営難の裏付とする、大きな信用不安になる事はありませんでした。

 ただ当社は当然、その様な状態が資金難から来ている事はその時にはわかっていましたが、「上場までは」や「副会長の贔屓先だから」のキーワードが関係改善に水を差し、みんなが保身の空気感だけで暗黙の様子見判断として足踏みし見逃していたのでした。

 私は出向する前日、新人時代からの営業部門の前上司であった役員に、C社の与信枠をすぐに減額若しくは0円に落とすべきだと進言致しました。

 役員は、しばらく考えて

役員:「では、自分の担当事業だけ“前金取引”に変えよう」

 と言い出したのです。

 昔からの付き合いで私の情報入手ルートと判断力の確かさをいくらか信頼し、「言う通りにしとこう」という直感と保身が鬩ぎあった結果の様でした。

 多少ガッカリしましたが、自分の今の上司よりは全然マシな反応で、サラリーマンでは無理もなく、このまま最悪の道に進まず、被害が最低限に留まる様に祈りながら出向先に向かったのでした。

(③へつづく)