倒産列伝014~バブル清算期の記憶2「独自の防衛策」④

倒産列伝

 

 あれから8年以上の歳月が経って世の中はリーマン前夜に踊っておりました。

 でも依然、当社は(私は)根気強くこの独自の制度を続けておりました。

 途中何度も見直しの機会はありましたが、この制度には過去の深い反省を忘れてはならぬ、という戒めの意味も込められていたので、それを知っている人たちは敢えて口を出してきませんでした。

 また、独自ながら社会にまったく胸を張れる制度ではなく、むしろ「恥」と言えたことだったので、上層や経理部門は徐々に距離を置き関る事は少なくなり、運用は私に任せっきりになっていたのでした。

 企業ではよくある事と思います。

 この時点で、外から来た役員にはぱっと見・・・

 『一人の協調性のない人間が意固地に運用する制度が生き残っていて、改善を促しても論破できないがゆえにタチが悪く、営業のチャンスを阻害し逃している悪制度だ』

 と映ったに違いありません。

 そしてバブルの後遺症など知らない連中がリーマン前夜に沸きたつ雰囲気も相まって、社内では私の守りつづける独自の制度に冷たい視線が当たる様になってきたのでした。

 そんなある日、私の上司であった部長職の方が

 「今度、Bの上に別の業界から来た新しい役員Cさんが来るらしいよ。」

 と私に告げました。

 上司は「あいつ、やりにくくなるだろうね。見ものだな。」と嬉しそうに言いました。

 役員のBさんは、長年営業畑の出世頭で年も若く、新人時代から付き合いの長い取引先も多く「話や意見が通りやすい」と市場から有難がられておりました。

 でもなぜか、プロパー役員と言うのは業界どっぷりで粗野な作法が対外的に品が劣ると映るためか、社会経験が浅く知識も偏っているとみられるためか、経営トップからは少し格下に見られる傾向があり、または暴走する懸念もあるのか、距離を置かれ、間に外部招致の役員をお目付け役に据えられるパターンが多かったように思います。

 私にとっても、市場をよく知っていることや私の性格も良く知っているため、私が話そうとしている事も柔軟に理解してくれるところが多く、特に、ご自身に貸倒れの苦い経験があるためか、経理畑で営業にも与信にも関心のない私の直属の上司より、営業寄りだけでなく与信管理上の考えも尊重し頼ってきてくれて、常に物事を両建てで考えてもらえる有難い人だったのでした。

 なので上司の皮肉な話題に相槌は打てど「会社は嫌なことするなぁ」と本心は不安に思う次第だったのです。

 なぜなら、私自身も「新しく着任した何もわからない役員」に、与信業務の複雑な説明を行いながら案件を決裁して頂くための説得をしなければならなくなるからでした。

 その新しく来られた役員Cさんは、有名なテーマパーク運営会社の役員を歴任し当社に転じてこられた様(なぜ辞めてきたのかは不明)ですが、営業専門を自負し、考えも極めて営業寄りな方で、そのことを知った時は「与信管理者の私こそ、一層やりにくくなる」と絶望感を抱くほどだったのでした。

 その絶望感は今までで一番ひどかったかもしれません。

 Cさんは私との面談では「与信管理ってどういうことやってんの?」からはじまり、役員Bさんやその他の上層たちには「めんどくさい」「こんな仕事必要あるの?」「無くした方が良いんじゃない?」などと言ってまわり、そのたびに周りの反応が期待通りにならないためか、1カ月くらいで「無いよりマシだね」「機能はしているんだね」などと少し皮肉めいた発言は出てきたものの、基本お調子者で顧客に「担保が必要」だとかの言い難い事を伝えるのは苦手なタチだったためか、同類の営業系役職者(C氏同様に外部から転じて来て与信的には無責任な判断をする調子のいい部長職の人たち)とスクラムを組みはじめ、私を営業に近い管理部門からコーポレート部門(本社の中枢にある間接部門をマネジメント統括部門)に弾き出す事まで発案し始めたのでした。

 まるで陰湿な性格のリーダーが、うわべ仲良しグループを作り、気に入らないクラスメートを村八分にする戦略が行われている様なものでした。

 これもまた企業にはよくある話で、派閥を形成し、お前は「B派なのか?」「俺のC派なのか?」と配下の連中に迫り、C氏がクロと言ったらシロもクロと言える支配環境を作りたかった様なのでした。

 そんなある日、数年前に異業種から新規参入してきた事業者D社に高額な商品購入の話が出てきました。C氏は直近で担当者とあいさつ回りなどしていた事や新規の取引先であったのであまり業界に擦れていないことなどから自分と昵懇の業者にしたかったようで、よりいっそう調子よく対応していました。

 新規でしたから実績を積むまで初動の与信枠は少ないのは仕方ないですが、異業種の本業のほうの資金が回せるのでたちまち枠は足りなくなり、営業担当は頻繁な与信枠の増額申請を課せられておりました。

 私は新規開設の際、この取引先がこうなることはわかっておりました。

 でも営業がそのポテンシャルを読めていなかった感もあり、また高額な与信枠を設定するに申請区分のハードルが上がると徴求する資料も増えるので気持ち消極的になっているところは察していましたし、更には私自身も先方の財務内容に気になるところがあったため、あえて最初から高額な与信枠を設定させず、過少な枠を突破しそうになる都度、先方を動態確認できるように慎重な対応が最善と考えていたので敢えてそうしていたのです。

 そんな状況を見かねたC役員が、私を攻撃してきたのでした。

(⑤につづく)