倒産列伝014~バブル清算期の記憶2「独自の防衛策」⑥

倒産列伝

 B役員は、面倒くさい顔をしながらもC役員から降りてくる指示に付きあっていました。

 C役員が取組案件の事前会議に私を呼ばなくなったので、B役員ご自身の判断で私に個別相談メールを送る様になっていたのでした。

 C役員は、ご自身の求心力を高めようと必死でした。

 新任なのでそれは仕方がない事でしたが、やり方が如何かな?と思うのでした。

 自分の取りまきを作る、言いなりの側近を作る、場の空気を読まないものを遠ざける。

 そして対外的には、誠実、明朗な人柄でもって勝負する。

 「失敗の本質」を読んだときに想像できる旧日本軍の幹部をイメージする様なお方でした。

 「テーマパークとか不動産デベロッパーって、こういう仕事の仕方なのかな?」

 「金額が大きくて動かない物を扱う業種にいるとこうなるのかな?」

 

 そんな固定観念を自分に植え付けてしまう気分にさせられつつも、周りがどんどんC役員になびき出し、自分に協調性が無かったのかな?とまで思う、私の方が自分を責める様にもなりましたが、いま冷静に振り返るとやはり彼が間違った考えの人だったと思います。

 B役員が、水面下で頼ってきてくれたので私の自我は保たれていた様なものでした。

 そしていよいよ機が熟したとみるや、あの独自の防衛策にメスを入れようとしてきたのです。

 私も出席していたとある飲み会の席、

 彼は陽気に酔っぱらってノリノリで若手の営業マンと肩を組んだりして、とても上機嫌なところで私に近寄りこう言いました。

C役員:「おいっ、みんなが与信管理はめんどくさくて、なかでも特にあの制度はうっとしいと言ってるよ。」

私  :「はあ・・・。」

C役員:「みんな、君のことを嫌っているんだよ。知ってる?」

私  :「仕事がら仕方ないですよね。」

C役員:「君のことが必要なことはわかってるんだよ。でも少しは、君も言う事を聞いてくれたらどうなの?」

私  :「私もやりたくてやってるわけではないのです。ただあの制度に関しては特に。補完する代替の策が無いんです。」

C役員:「でも、取引先の倒産なんか起きてないじゃない?」

私  :「最近はそうですね。」

C役員:「じゃあ、やめちゃえよー。」

私  :「はあ・・・。」

 彼の着任以来、まだ幸い大きな貸倒事故は起きていないため、酔っぱらった勢いで軽いノリで言われたのと、私自身もこの制度は重荷になっていたので、機転を利かせたツッコミで反論を切返す気力が無く、しょうがないので咄嗟に

「うるへーっ」

 と叫んで、助走して背の高いC役員の胸板にプロレス技のボディアタックをお見舞いしてしまいました。

 ドッカーンと私に弾け飛ばされ若手営業マンの群れにヨレヨレと倒れこんだC役員は、助け起こされ体を建直すと、今度は私にドッカーンとお返しのボディアタックをかましてきまして、私はギリギリ倒れそうで倒れないアメリカンプロレス的リアクションをとりましたところ、それを見ていたほかの営業マンや管理系若手が次々とC役員にボディアタックをお見舞いし始めたのでした。

 会社の飲み会で、平社員が役員に次々とボディアタックをお見舞いし、C役員は道端の植込みのツツジに倒れこんでしまう光景って、あんまり見ない事かと思います。

 私の事を支持してくれる若手たちが、ふだん私をいじめるC役員に仕返しをしてくれている・・・とまでは思わなかったものの、若手たちもこの人になんか「心にため込んでいるもの」があるのかな?と思いましたが、同時にそのやられまくるお姿を見ていると、一人の人として接すれば「とてもいい人なんだろうな」と思わせる光景だったかと思います。

 あの飲み会以来、C役員と若手たちの距離は一層近くなったように思いました。

 彼らの中にも私に「この制度、何とかなりませんかね?」と言う者も出てきました。

 そして私も、それに同意するかのように精度は落とさず合理化する方法はないか真剣に考え始めていました。

 漫然と凝り固まった頑固な制度を変えるには、強力な力が必要ですが、自然に周りの雰囲気から「変えなければ」という空気が漂うようになることで、意外と無理なく考える様になる。

 過去に恐怖で人や制度を変える経営者をたくさん見てきましたが、C役員はそうではなくあの飲み会で一体感の雰囲気を生み、現代に合った変革のやり方を採ったのだと感心させられました。

 でも「変えなければ」という気持ちは共有できましたが、「どうやって?」が依然非常に悩ましく、社内で自分以外の人からアドバイスをくれる人がいませんでした。

 私自身が特殊な環境におかれた特別な仕事という観念が強く、社内でそれを説明しても理解してくれる人はいないと決めつけ、誰にも相談できなかったというのもあります。

 今思えば、変える役目として私の力が足りなかったのだとも思います。

 そこで、この難しい業務に係るその他諸々の課題も合わせた答えを外部に求め、与信管理実務者の社外交流会に参加する様になったのも、この時期でもありました。

 答えが出ぬままそうこうしているうちに、D社の営業担当のT君が私のところに駆け込んできました。

T君:「ついにD社が大口3000万円のまとめ買いをしてくれることになりました。」

私 :「どうしたの?」

T君:「D社がH県の郊外にそこそこの店舗を出す事になったんです。商品は中古でそろえる方針もあり、全部新品の丸抱え受注にはならなかったんですが、大型商品は新品で買ってくれることになりました。」

私 :「それは良かったね。慢性的に不足している与信枠はどうするの?」

T君:「大幅に足りません。またもや臨時の一時加算申請をするしかないです。」

私 :「ファンドが付いていたよね?前金で頂く交渉はしないの?」

T君:「それが、そういう展開になっていないそうなんです。」

私 :「ふーん、そうなんだ・・・。」

 その後、私はD社の信用情報を見返しながら、ファンドから金を引っ張らないのかな・・・?

 結構、山っ気のあるアクティヴなファンドなのに・・・。

 怪訝に思い、今一度D社の財務内容を確認してみました。

 本業は安定しているものの儲けが少なく、預金はあれど億単位の金を用意する余裕はない。

 新規事業として当社の業界に進出し、その資金をファンドが出しているはずだが、究極の前向きな行為となる新規出店には消極的?

 2、3日たってオフィスの端っこでT君の報告を聞き「よかったじゃーん!!」と喜びながら執務室から出てくるC役員の姿が見えました。

 そしてT君が、私にも報告してきました。

T君:「リース会社がついてくれるそうです。」

 私には直感的にヤな予感が過ったのでした。

(⑦へつづく)