倒産列伝014~バブル清算期の記憶2「独自の防衛策」⑦

倒産列伝

 ここ最近の雰囲気もあったのでしょう。

 T君は、あの制度(独自の防衛策)のプロセスを忘れてしまっておりました。

 急な大口商売に舞い上がってしまってのことなのは無理ありませんでした。

 そしてリース会社E社の担当の人も同じだったかもしれません。

 D社のメインバンクの系列リース会社でしたし、降って湧いた様なチャンス話でしょうから。

 ユーザー(D社)と契約を結ぶのが最優先でサプライヤーに対してはプロセスを無視していきなり「注文書」を送りつけてきたのでした。

 E社は今回の経緯に際して挨拶はおろか、最初の肝心な見積もりの依頼もしてこなかったのです。

 気づいたT君は、大慌てでまずはあの制度のプロセスに則り実質の購入者であるD社の与信枠の増額申請を起案してきました。

 申請自身は電子ワークフローですから、回付そのものはあっと言う間に私のところに到達します。

 私がそれを承認して経営に回付するという順番ですが、私はE社の与信枠のほうは大丈夫なのかな?と確認してみましたところ、親会社はメガバンクでありE社自身の信用リスクの評価も論ずるまでも無く、そのうえ枠も十分な残高がありましたので、そちらの心配はありませんでした。

 しかし、このリース会社は意外と曲者で、リース案件が少なく自身の業績が思わしくないときは特に契約の獲得モチベーションが高くなり、リース料率の大幅なディスカウントを行ったり、果てはマイナス料率などと一般には理解しがたい条件で案件の獲得に動くアクティヴさを持っていたのでした。

 リース取引の基本プロセスに従わず、自社系列の信用を盾にいきなり注文書を送り付けてくるところは傲慢この上なく、いくらこの制度を変えていこうかな?と考えていた私でもこの様な対応には憤りを覚えました。

 でも当社の営業が、いくらあの制度を変えていく雰囲気になっていたとはいえ、またメガバンクの信用背景があるとはいえ、先方が基本に則らずに進めようとするところを言いなりに受入れ、何も言わなかったところには情けなさを感じました。

 銀行系ってどうしていつもこうなのかな?

 昔、親銀行の言いなりに審査もろくにせず、リース業協会の公的プロセスも守らず、当社に自社系列の持論をぶつけてきた、あの地方銀行系リース会社の常務「鬼」の顔を思い出したのでした。

 稟議は十分な直近資料が無かったので内心は保留にしたかったものの、プロセスを守ってないとはいえ相手のメガバンク系リース会社が待っており政治判断も働くので、いったん通しておいて即座に債権をリース会社E社に移動させるのが最善と考えました。D社の信用を改めて図るのには不足する情報がある事やE社との間には債権移動のプロセスに不備が目立ち、円満スムーズに処理するには懸念克服のための課題が多くある旨をコメントし承認して回付を行ったところ、たちまち決裁され債権の移動が行われました。

 やれやれと思いながら、大型商品たちが納品されあとはE社からの入金を待つだけとなった段階でとんでもない情報が信用調査会社から飛び込んできました。

 どうやらD社が、民事再生手続を申請するのではないか?との情報でした。

私 :「ありゃりゃ、て言うかすでに申立てしてるんじゃないかな。」

 その通りの展開でした。

 T君の上司の営業部長も飛んできて、さてどうする?となりましたが、E社の動きを静観しようという事にしました。

 当社内の上層にもこの情報を発信したので、C役員は私のところに飛んできて私の耳元でつぶやきました。

C役員:「取引信用保険、掛かってるかな?」

 私は、「保険頼みかよ?」と情けなく思いましたが、彼の目は笑っていませんでした。

 貸倒れの恐ろしさを知っている役員の目でした。

 D社の地元新聞やネットのニュースでは、上場を期待されていただけに大きく取り上げられ、リーマン前夜の好景気に暗雲差込む悪いニュースが世界中で話題になってきていた時期でもあり、不安を更に増幅させた様でした。

 私も、あの制度の戒め通りに稟議の回付を行い責任を負担したとはいえ、リース会社に債権が移動する前提で承認したことは後悔せざるを得ませんでしたが、ただT君は私の指摘に従い当社が備えておくべきプロセスの要所は守っておりました。

 油断したのは出鼻のリース会社E社が端折ってきた部分を受け入れた事でした。

 ズルいT君の上司は、その部分を蒸し返し彼を責め立てましたが私は「とにかくまずはE社の出方を待とう」という事にしたのでした。

 つまりE社は、当社の債権がD社からE社自身に移行し当社へ支払義務を負っている事を認識しているか否か・・・・、要するにE社は納品されたばっかりの商品の債権が、D社の民事再生と言う倒産により、いきなり焦げ付いたことを認識しているか・・・という事でした。

 おそらくE社内ではパニックになっていると予想されました。逆の立場なら、E社の責任者達は彼らの社内で債務の移動手続が行われている途中であったなら「なんとかしてこの債権移動の手続き中断し、無かったことにできないか?」必死で考えることでしょう。

 メガバンク系列のプライドから「納品したらすぐに焦付いた」など言えませんし・・・でも当社からD社に納品した大型商品は、既に稼働し始めていました。

 民事再生ですから、倒産したとはいえ営業用資産の稼働は認められます。

 つまり営業は続けられますが、D社からE社へリース債務の支払は行われないという事になります。

 心の底から申立てした会社を「応援したい」と思う債権者以外は「直前で騙されたうえに商品をタダで使われている」としか思えない展開となります。

 当社が、直接の債権者であればメーカーでもあるし債権はいわゆるトリシン(取引信用保険)にて、とっくに保全していますので「応援」の判断もできたかもしれません。

 とはいえ、間抜けなメガバンク系列のリース会社から債権を買い戻して損を引受ける慈善さは持ち合わせておりません。

 第一、不良債権を買い取ることが生業じゃありませんし、それを行ったら株主や利害関係者の意思に背く行為ですから、そんなことできません。

 数日後にT君と上司の営業部長が私のところにやってきて

T君:「E社から連絡が入り、いったん会いました。今までの担当者はもう出てこなくなって全然知らない人に変わってしまいました。」

 まあ、よくあることかなと思いましたが、彼は気分が落込み青ざめた表情で、その上司も無表情でありました。

私 :「どんな人?」

T君:「こんな人でした。」

 T君に見せられた名刺の肩書は「メガバンク系債権管理部債権回収担当部長F」とありました。

私 :「またヤな肩書の人来ちゃったね?」

T君:「部下も数人連れてきて明日改めて訪問するとの事でした・・・どうしましょう・・・。」

私 :「良いんじゃない?こっちが出向くのじゃなくて、来てくれるんだよね?」

T君:「はぁ・・・。」

(⑧へつづく)