大きな会場でしたから更生管財人のE先生もA氏も遠くに見ることになり、お二人とも比較的長身
にもかかわらず実に小さいと感じました。
多数の債権者を前にして竦んでいたのかもしれません。
見える限りA氏は、私がお会いした申立の初日と同じように天井を仰ぎ見て目を空けているか否か分からない、債権者たちをまともに見る事が出来ずにいる様子でありました。
頑固で独裁でも真面目で一途な性格のA氏のとがった頬骨から、いく筋もの涙がこぼれていたのでしょうか、キラキラと流れ光かる筋が遠くからでも見えたので、近くで見たら滝の様な流れになっていたのかもしれません。
両脇にいた管財人、代理人の先生も言葉を掛け辛らそうでした。
でも唯一、髪型のオールバックだけは普段通り完璧に決めていたので我を失っていない事だけはわかり、さすが試練に耐え抜いた人生でしょうから、私は「これだけで崩れる人では無い」と安心できたのでした。
さて説明会の開催が申立代理人の先生より告げられ、自己紹介と数名の代理人が紹介され、そして更生管財人となるE先生が短く自己紹介をした後にA氏が紹介され「一言」となりましたが、先生方から「カッコつけて余計なことを話したり感情的な表現はしない様に」とキツく言われていたのでしょうし、そもそも顔がくしゃくしゃになって考えもまとまらない状況だったと思いますから、軽く「自分に責任がある」という事だけ告げてお詫びした程度で終わり、その後登壇者全員の一礼で着席となりました。
そして申立代理人の先生が淡々と申立てまでの経緯をドキュメントとして説明されました。
申立てのきっかけは、所有資産の過大計上やリース資産に対する多重債務の存在が監査法人により洗い出され、悪質な不正会計として有価証券報告書に掲載しなくてはならなくなった事だった、との事でした。
それにより、メインバンクなどから大型店舗の出店のための協調融資や設備投資用の通常融資はおろか、資金つなぎの当座融資もストップしてしまい、元々自転車操業だったものが急激にガス切れ状態になった事で存続の不安が募り、このままだと瞬時に大きな債務超過に陥ってしまい、破産するしかなくなってしまうので、そうなる前に上場企業や大企業等が雇用や納税などが止まってしまったら社会的影響が大きくなると感じられる場合に活用できる「会社更生」を急ぎ申してた、との事でした。
①の後半でも触れた私見で恐縮ですが、会社更生は民事再生など再生型の倒産と比較して、そうそう申立てられるものではなく、それどころか上場企業でさえも数年に1~2件程度と非常に希少でハードルの高い倒産法です。
それを急ぎ申立て開始決定まで持っていったというのは申立代理人の腕前もあるかもしれませんが、業界の社会的位置付けが向上したことや発展を示すことであったので、非常に感動したのです。
が、そんなことはさておき・・・
社長だったA氏が「おれもわからん!!」と言っていましたこの「会社更生しかない!」と顧問弁護士や会計士、監査役に詰め寄られたのは申立の一カ月近く前だった様で、A氏が同意したと見るや大急ぎで別の弁護士が代理人となって申立に着手したとの事でした。
「顧問弁護士が申立てすれば良いんじゃないのか?」と言う声もよくありますが、倒産企業の顧問だったとなるとその後の仕事に響くのでしょうか、あえて直前に退任や解任されたり自ら辞任されることが多く(なので顧問のまま申立代理人をしてくれる先生は実に私は潔い先生だと感じるのです。)、今回も全員が事前に退任された体になっていた様ですが、そんな中で「あれ?」と思ったのは、全員メインバンクに関係する方々じゃなかったっけ?と思うところで、少なくとも監査役と経理の責任者はメインバンクからの出向者だった記憶で、それなのに不正会計だからと融資を止められたのも、なんだか納得できなかったのですが、そうはいってもA氏が「すべては俺に原因があっとよ(あるのよ)~」と言うからには、「そうなんだろうな」と思うしかない次第でした。
やたらとガナリ飛ばし、人を威圧して経理の人にプレッシャーをかけていたのは大いにあったかと思われ、幾人もの関係者を心の病に陥らせたと聞いていました。
私が若い新人のころから業界でもガナリ系で有名な人で、尊敬と畏怖の念を業界中から浴びておられた方で、当時はA氏が当社に電話を掛けてきて「〇〇いる?」と上層の役職者を名指しでしかも呼び捨てで取次ぎの依頼をもらうだけで、私ら新人はご機嫌を損ねない様に背筋を伸ばす緊張の電気が走るものでした。
そんなA氏に我慢ならない出向者の方々が出向元の銀行の知恵や力を借り、クーデターを起こされたかもしれません。
「パワハラが過ぎたんだろう」という水面下でささやかれる声も多く聞こえてきました。
続いて今後の流れや予定が説明されました。
今回の説明会からジャッジメントとしての集会まで約1年かかるとの事でした。
しかしおそらく、財産の調査やごねる債権者との交渉事や裁判に発展する事もあるでしょうからこの通りにはいかないでしょう。
ちなみに前回の③で「債権者説明会」が「債権者集会」とよく誤って報じられたりすることがあると述べましたが、この会社更生では手続が始まりますともっとややこしくなります。
この会社更生は、開始決定が出た時に債権者への支払は法的整理手続きなので大半ストップします。
しかしながら店舗などの多くはそのまま稼働させるので収入がそのままの状態でほぼすべての取引先への支払いを止めますのでお金が溜まります。
そしてその資金を手続の進行に必要な費用に使います。さらに手続が進む中で“更生”という言葉がある様に否が応でも建直して存続させる手続きですから更生に邪魔な債権者からの借金や差入れた担保等は管財人が裁判所の許可を得て実行を止めさせたり担保設定を解除させる事だってあるとの事で、一方でそのうち更生に協力する、立案された更生計画に前向きな債権者や申立て後に出資をしてくれたりする人も出てきます。
債権者だけではなくそう言ったいろいろな立場の方々が関わってきますので、民事再生などとは違い説明会は「債権者説明会」ではなく「関係人説明会」に、ジャッジメントを行う会は「債権者集会」ではなく、それを行うに必要な情報の伝達会も含めて「関係人集会」と言う呼び名に変わります。
実にややこしいし、回収に必死の債権者など理解しようにも出来ないです。
さてややこしい話から戻ります。
続いて債権者をはじめ関係者からの質疑応答となり、多くの方々が挙手されました。
説明会が始まる前にも見渡したのですが、後ろのマスコミに気を取られ肝心な同業の債権者がどこにいるかチェックするのを忘れていましたので質疑応答になり改めて周りを見たのですが、やはり見慣れた顔を見つける事はできませんでした。
電車でいける様な近隣で開催されるときは、銀行やリース会社、異業種の債権者とは別に
「おーっ久しぶり」だとか「お前んとこなんぼ引っ掛かった?」など、そこかしこで業界の人同士の挨拶や名刺交換、情報交換の声が飛び交って、なんだか業界の集まり会の様な感じになるパターンがよくあったのですが、負債総額200億円を超える大型でしかも会社更生という最上級かつ難しい倒産法の申立てで、はるか遠方での開催は、ほとんどの人たちに来るのをあきらめさせたのかもしれません。
後に少し触れますが、過去に債権者の対応に大変苦労された管財人E先生の戦術だったのかもしれません。
また、そこそこ大きい会社な債権者になりますと債権額も大きかったでしょうから、この制度の難しい仕組の理解度もあいまって法務部や経理など専門職の人や弁護士に委任して寄越す人も多かったのでしょう。
なので、債権者の面々はメガバンク、大手地銀、地元信金、農協系、事業系と金融系の大手リース会社に地元の建築関係、食品卸が大勢で、AM業界は私ども大手メーカーの専門職担当者くらいがいた程度でした。
しかし目立って感じが悪い印象だったのは、一番前の座席に4~5人陣取って全員の顔に怒りと傲慢さが満ち溢れ、管財人をはじめとする壇上の者たちに異様なプレッシャーを与えていた、業界で大手のR社の連中と思しき面々だったのでした。
(⑤へつづく)