倒産列伝015~おれもわからん!! 会社更生⑦

倒産列伝

 現役の上場企業が、上場したまんま倒産を申し立てするのはとても珍しいことかと思います。

 少し横道に逸れ、ここでは倒産と上場株式、株主の被害について述べさせてください。

 普通は、倒産する前に致命的な財務問題が元で信用不安が発生したり、コンプライアンス面で不正が明るみに出て、内乱などゴタゴタがあってその結果、監理銘柄に移行され、1ヶ月ほどたってから上場廃止などの処分となって市場から消えていきます。

 なので、株主はその間に売却などして損切りすれば被害は最悪とはなりません。

 そして上場が廃止され非上場化した後に、人知れず清算が行われ価値ある所有資産や事業を分割した新法人を別の企業グループや投資家への売却で得たお金を債権者に弁済・分配(配当)し、残されたポンカス法人(つまりA社)を再び法的整理(破産)させ、(A社は)登記上消滅していきます(事実上だけでなく、法的にも死んだこととなる)。

 監理銘柄となった時点で、通常よりも株価は激落ちしますが、数円単位で値動きがあるので、その上げ下げで利益を得ようと、あえてスリルなゲームに参加する株のプロもいて、そのせいで乱高下を繰り返すこともあります。

 でも最後は、整理銘柄への移行を経て株式市場から退出となるのです。

 当然ご存じでしょうが、株主は債権者への弁済順としては最劣後(優先順位一番後位)と言えます。

 予め自分の債権を担保などで防衛していた連中の別除権があって、その後に租税公課、社会保険、給与(労働債権)、一般債権(売掛金、貸付金、リース債権、社債等々)、最後に株主となります。

 なので上場株式の場合、倒産したとなれば即、無価値となる認識で良いと思います。

 したがって今回、上場のまま倒産しちゃったので即無価値となってしまったはずです。

 その前に、最重要な役員だった人物は身柄を拘束され取り調べされる事もあります。

 冒頭で、「おれもわからん!!」とA氏が発した後、「俺はどうせ捕まるとよ・・・」とこぼしていましたが、その通りなのです。

 でも結局、後日談を聞いたら「検察に呼ばれたけど、事情聴取で終わった」とのことでした。

 今回、逮捕する必要はない判断されたようです。

 とりあえず上場株としては大きな混乱もなくA氏の逮捕も無く穏便に終わった様でした。

 実は当社は、債権のほかに株も所有していまして時価にしたら1億円以上、出資比率もそれなりだったので、実質は債権に加え出資の被害もありました。

 「この分はどうすんの?」と言う様な、ツッコミは社内では無かった記憶です。 

 ずいぶん昔に突っ込んだお金だったので、倒産当日の日付にさかのぼって財務の人が価値を0円に落として、ここは穏便に済ませたのでしょう。

 大口株主は数も少なく、昔から関わりのある先ばかりだったので、株の動きや代表に疑念を抱いて、告発する者はいなかったのでしょう。

 実直なA氏の性格が、我が身を助けた感じもします。

 ということで出資の被害の話はこの程度にして、いよいよ始まったE先生による更生計画の立案に向けての仕込みについて述べていきたいと思います。

 更生計画の立案は、会社の基本とするヒト・モノ・カネの再構築の方法と見込みを、裁判所をはじめ関係人(債権者や支援者など)にアピールするのが必要ということになるのですが、E先生が取掛かったのは、まずはヒトからでした。

 裁判所が申立を受理した時点で取締役全員が即クビ(退任)となっていますので新たに会社を動かす人材を探さなければなりません。

 私がA社の事務所を訪れた時には、A氏とE先生しかおらず、あとの役員も幹部もみんないなくなっていたので、債権者説明会が終わり、私のA社事務所への訪問が3回目くらいになった頃だったでしょうか、役員以外のかつての管理職の方々が一人ずつ呼び出され、E先生の面談を受けていたのでした。

 

 更生管財人であるE先生は、更生会社となったA社を経営してくれる人材を探していたのです。

 A社の実務に詳しく、経営を任せられる能力を持っていて倒産前は役員ではなかった人物を。

 「そんな人いるの?」って感じです。

 その面談の対象の中にはA氏のご子息も入っていました。

 彼は親族なので運営上の課題点などを聞くために呼ばれただけとの事でしたが、真摯に会社の事を考えて管財人に引継ぎ事項を述べに来るのは、若いのに感心な存在でした。

 この1年ほど前に、彼は盛大な結婚式を挙げたばかりでした。

 結婚前は六本木の高級マンションに住み、帝王学を学んでいました。

 住んでいるのが六本木だと聞くと放蕩息子をイメージしますが、そんな雰囲気も無く至って真面目な若者でした。単に父親の運用目的で購入したマンションに住んでいたのだと思います。

 盛大な結婚式も、父親の顔を立てた様なものだったのでしょう。

 式や披露宴に参列頂いた取引先の人々が、倒産して債権者となり父親を非難する姿に豹変したのを見て、どう感じたことしょうか・・・。

 そんな彼も取締役ではなく執行役員でしたので、更生にあたり再雇用して代表に据えても良いのではと私は思いましたが、E先生はあえて明言を避けました。

 そして結果的には遠ざけました。

 確かに債権者から見たら「倒産させたのはA氏のせいなわけで、責任はその息子にもある」と考えてしまうのは仕方がない事でしたが、特にR社などが先鋒となり激烈に親族の関わりの排除を求めていたのでした。

 株主でもなかったくせに。

 ダメダメばかりでは企業は再生しません。

 恨みや差別、偏見を乗り越えて、こうなったらまず復活させることを考えるべきだと思うのですが。

 ましてや最強の会社更生手続きです(何度も言いますが)。

 人間に例えると、「脳髄だけ残してでも、なにがなんでも更生させる」と言っても過言ではなく、そのために行使できる権限を管財人は国からお墨付きを頂いているわけですから、ハードルは高いでしょうが、考えられることは何でも管財人に提案してみるべきだと私は思うのでした。

 特に債権者は、倒産前は「不安なし」と思ってモノを売っていたわけですから、両者を見下ろす立場の司法から見ると両成敗だと思います。

 「あなたの与信が甘かった」という事になるのです。

 被害の大きさでその甘さも量られます。

 特にR社は、大手でない取引先には前金制を敷き利益を先に毟り取っておきながら、都合よく大手だったA社には、シレっと与信枠を設けていたというのは、市場の成長を阻害する様な行為をしてなお、一貫性のない与信管理方針となっていたわけで、今回の貸倒被害は自業自得と言えるのですが、にも拘らず、恨みつらみと嫌がらせに近い、何でもA社が悪いから自分の損失を取り戻せるまで“なんでも”反対する姿勢はあまりにも愚かだと言わざるを得ず、司法の目にもその様に映っていたと思います。

 業界に対する社会評価が下がってしまう一方です。

 でも金融機関の立場でありながら「騙された!!」などとわめく人のほうが一番最低と思うので、それよりは良いかとは思いますけど、それは横に置いておきます。

 (⑧へつづく)