「チャンスをものにしたいんですよ。」
2代目を継いだばかりの彼が来社して開口一番、言い放った言葉でした。
既に外資系の銀行から社債を引き受けて頂く話や国内外のファンドからも次々に投資したいとの申入れが来ている旨を我々に話してくれたのでした。
皆一流の金融業の方々ばかりで、あの頃は本当に異常でした。
でも若い経営者達から見たら誰でも大金を引っ張ってこれた人生にまたとないチャンスだったのでした。
そして誰も頭ごなしに「失敗するよ」など、ネガティヴな姿勢をあらわに否定する空気ではなかったのです。
役員が言いました。
「肝心な本業のプラン・・・成長戦略はどうなんですか?」
我々には、金融機関やコンサルタントと協同で作る資金調達活動の「前の段階」という位置づけで口頭でのプレゼンをされました。
同業なのでプランの実現性を最もよくわかる相手として、アピールが目的だけの外部の方々が作成した美しい資料は通用しません。
しかも最大の供給者でありましたから、ハッタリなど効きません。
まずは、私どもの顔色を窺ってから、しかし反対されると最大の難関として立ちはだかる存在なので、彼らは真剣・慎重に、そして飾らず誠実に、リスクも両建てで真摯に夢を語ってくれたのでした。
でも率直な意見としてこの会社を先代から知っている我々には、彼らの今の実力で適えられるプランではありませんでした。残念ながら・・・
彼らには斬新なものだったでしょうが、歴史を長く知る我々は同様の失敗例をたくさん見てきましたからでした。
でも・・・この投資ブームで名だたる銀行などと、この2代目の若さとガッツがあれば“ひょっとして”
という雰囲気はありました。
長く凝り固まった我々の歴史観に風穴を開けてくれるかもしれない・・・。
しかしながら、映画で見る様にアップテンポに称賛しその場で賛同を与えるわけにはいきません。
予想通り、老舗のもったいぶった態度で訝しがる私達に対して「私に投資しないと、あとで後悔しますよ。」と捨て台詞を吐き、その若者らは部下や金融機関を引き連れ部屋を出ていきました。
役員が私に言いました。「どう思う?」
私 :「可能性は低いかもしれませんが、年商50億円を1年で100億円にする・・・って今どきないですよね?化けたら面白い、ここはリスクを承知で応援してみるのも良いかと思います。」
役員:「ダメだったらどうする?」
私 :「リピテーションリスクを見ながら撤退戦略に切り替えるしかないでしょうね。」
役員:「ターニングポイントは?」
私 :「上場ができるかの可否情報をいち早く拾う様にして見極め、いったん見直しですね。」
役員:「もし破綻して倒産したら?」
私 :「貸倒は追わない様にしますが、不測の事態となればいっしょに“飛ぶ”覚悟が必要ですね。」
役員:「飛ぶって?連鎖すんのか?」
私 :「いいえ、それはあり得ませんが、不良債権をしょったら役員と私が飛ぶ覚悟という事で」
役員:「やだなぁ、でも賭けてみるか。直部下の営業らは彼らを嫌ってる。あのプランにも懐疑的なのでしっかり、しっかりお前がモニタリングしてくれ。」
私 :「はい(といってリスクあれど成功しても褒められないんだよな)。」
あんまり釈然としない展開でしたが、私は自分自身の可能性に賭ける度胸試しと勘の醸成にときめきもあったので応じた次第だったのでした。
(③につづく)