倒産列伝003~君の言う通りにしときゃ良かった!!④

倒産列伝

 社長からは、いろんな担保物件を提案して頂きました。

(ここから難しい表現が多くなり恐縮です)

 まずは「株券」、株価が変動するので担保設定した後にいったん売却して与信枠に相当する現金に換え、保証金担保の設定をし支払えなくなったら取崩すという方法を取りました。証券会社さんからは「株券を担保にとる行為は、流通を阻害する行為ですよ!!」と説教もされました。でも取引先を延命させるため仕方がない事でした。

 次に社長から提示されたのが「生命保険」、積立式で解約すると現金が戻ってくるもので、その予想額を担保に設定しました。社長さんご自身だけではなく、会社が従業員とその家族の方々にかけている生命保険で、それをお預かりするのはとても嫌だったのですが、設定後すぐに先方の資金が尽きて解約され現金に換えて頂き支払いに充当して頂きました。保険会社さんから、そこまでして保全するんですか?という声もありましたがジッと堪え、心の中で「こちらも会社のためには鼻と勘で与信したり感情だけで動けない」と自分に言い聞かせる次第でした。

 ようやく当社の債権残が億を下回ったころに先方の資金繰は収益が追い付かず、メインバンクへの弁済分だけデフォルトの可能性が高くになってしまい、社長がもっとも仲が良く信頼してきた地元銀行の担当者に決済期日直前で弁済猶予の打診をしたらしいのですが時すでに遅しで、その日の夕方に「副支店長」なる方から電話で「今すぐ来い」との一方的で強気な連絡があり、社長が応じて顔を出すと肝心の支えだった支店長と担当の方はその場に無く、副支店長と債権回収担当と名乗る人物が出てきて「あんた、全部粉飾決算だったんでしょう?ウチを騙したね?」と過去に提出した決算書を投げつけてきたあげく持参した計画資料など目もくれずに尊大な言い回しで粉飾の疑義をいろいろ追及され、この豹変ぶりにそれまで銀行に「不義理をしてはいけない」と「助けてくれる」と信じて頑張っていた社長の心はズタズタに壊れ、悔しさで涙が出たとの事でした。かわいそうでしたが、いろいろ見てきた私には予想できていた事でしたが、粉飾と言われると完璧に否定できない中小企業の悲しいところもあり、人格を否定する様な言葉も散々浴びせられ、それでも「自分が悪いのだ」と言い聞かせ男泣きで給与資金を決済に充てる事にしたのだそうです。

 給与遅配の情報はたちまち風評が出回り、その後私が訪問した時には従業員の方々はほんの数人になってしまっていました。旧知の当社OBだった役員さんも辞めたとの事。ガランとした事務所の寂しい雰囲気の中、社長はあきらめずに「メガバンクさんならまだ融資してくれるかも」との事で大手1行に申し入れしたところ「すぐ1億円を融資する」との返事で、偉い方が担当者を通じて「他が貸渋るなら当行が融資したというエビデンスを元に他行にも掛合うと良い」と心強い発言をしてくれたそうですが、これは彼らに最近の情報が入っていなかったにすぎず、すでに情報が入っていた他行は融資どころか口座を止めてしまっていたわけで結果、その銀行さんに恥をかかせたばかりか、全ての銀行から総スカンとなり、いよいよ「万事休す」となりました。

 でも拾う神もありです。あらたな助っ人として、この会社を支援する私どもに「商品供給を緩めない、見放さない事を条件に」という事で、先代が「自宅に根抵当を付けて良い」と申出てきてくれました。社長が会社の危機との嘆願に静かな余生を過ごしていらしたにも関わらず応えてくれたものでした。さっそくこのご自宅不動産を査定して根抵当の担保設定をし、こちらの支援強化策を見直し先方には資金繰表(日繰)を提出して頂き、当子会社の仕入債務は親会社である当社が債務引受し、先方が月末資金不足となる場合は当社の債権と相殺できる名目を作り、そうでない場合は期限未到来分も含め前倒して支払い資金繰に有効活用して頂く等の方針を立て、会社に決裁を頂き都度、資金繰りが尽きない様に実行していきました。

 この間、時間稼ぎができたので社長は、すべての銀行に対してリスケジュールを申入れる事を決断しリスケで浮いた資金で取引先へ振出した支払手形を決済する事に合意を得たいと通知し、いわゆるバンクミーティング開催の招集を行ったのでした。(⑤につづく)