「今回のバンクミーティングは、全行に出席頂きそして全行一致で合意してくれないと成立しませんよ。」私は社長がイラつく提言を敢えてしてしまいました。やはり、危機が表面化する前段階で銀行さんに支払い猶予のお願いをすべきであったと私は考えておりましたので。でも、ただのいち仕入先が出しゃばって結果、当社の本部までが銀行にそっぽ向かれる様な事にでもなれば困るし、社長の私の意見に対するプライオリティも低いのは見て取れましたので、それ以上強くは言わなかったのです。
でも当社も営業や子会社達まで巻き込んで担保の件だって精一杯やったし、ここまで支援したのだからもっと口出ししてもいいのでは?と思うところもありながら、やはり出しゃばるな!!という考えも常に頭の中をぐるぐる回って葛藤が起きていたのです。社長も社長で会社を存続させる事、その次は自宅を担保に差出してくれた先代に迷惑をかけたくない事が優先で、肝心な当社の事など考えてられないという感じでお互いに気持ちはすれ違いながら、いよいよバンクミーティングの開催日が近づいてきたのでした。
社長:「強力な助っ人が来てくれるよ」「有名な再生コンサルタントの先生だ!!」
私 :「ベストセラー本も出したあの有名な再生コンサルタントの先生ですか?」「私、本持ってますので当日サインを頂きたいです!!」
突然の大物助っ人の登場で、一挙に場の雰囲気に明るい日が差込んできた感じになりました。
そしてついにバンクミーテイングの開催当日となりました。当社は、社長から請われ銀行団の面前で「商品供給の支援」を表明するため私と営業課長とで出席する事になり、支援の表明後は直ちに会場を出るというコンサルの先生による事前のご指導に則って行動する事になっておりました。
ところが、当日の朝一番「あのコンサルの先生、逮捕されちゃったよー」「えーーー?」
なんと頼りにしていたコンサル先生が、債権回収や脱税を指南し弁護士法違反を犯した疑いとして警察に逮捕されテレビでも大々的に報道されておりました。「今日のバンクミーティングはどうなるの?」とせっかく段取りしていた現場は混乱を極めてしまいましたが案の定、会社からも我々に「出席不要」の指示が出て、バンクミーティングにはどの銀行も欠席という事態となってしまいました。なんと運の悪い事か・・・。
その後、もう銀行が社長の話を聞いてくれる事は一切なくなりました。親身に個人的に話を聞いてくれていたメガバンクの一人も去っていき、同時に借入を返済しなくてもなにも言ってこなくなりました。ただもう時間の問題なのは確実で、我々も負うとわかっている不良債権を敢えて負う事はできなくなったので、社長同意のもと受取手形をすべて依頼返却し現金取引のみの対応に切替え、回収撤退という方針を取らざるを得なくなりました。ただし商品供給を止めればあの会社は即死するので、少しずつ引き上げる手段をとり、最後は店舗や資産を売却して得た資金で残りの当社債権2000万円程をお支払い頂き、先代の不動産担保は回収が済み次第、解除させて頂きすべてチャラになりました。
当初は億を超える債権を、支援しながら担保を頂き実行したり返したりという手法を取ったのでヘトヘトの極みでしたが結果、取引先とのリレーションを無くさずに支払いのモチベーションを持たせながら回収していき不良債権も残さずに済んで良かったとなりました。表面的にはそうだったかもしれませんが、とは言え長年の取引先を失ってしまった影響はいつか降りかかってくるだろうと思えたし、ましてやすべてを失った社長や職を失った従業員の方々の事を思うと、達成感など全くありませんでした。
あのあと社長の会社は手形不渡事故を起こし、銀行取引停止処分で事実上の倒産となりました。銀行は社有不動産に(担保割れながら)抵当をつけていたので粛々と実行して去ってしまい、残ったのは商業登記のみとなりました。やはり思入れもあったのか、再興を誓ったのか、登記が無くなる破産などの法的整理はしなかったのです。
気が付けば、社長はご自分の自宅を売却して返済に充て、いったん一文無しになりながらも頑張って会社の立直しを決意され、忙しく動き回っておられました。彼の実力なら2億ほどの売上は余裕でしょ?と評する業者もいて復活の可能性は高いと信じる次第ですが、社長はやはり思っていてくれていたのです。
「君に忠告されたあのとき早いうちに、銀行と交渉をすべきだった」という事を。
そして顔を合わせるたびに「君の言う通りにしときゃよかったよ」と言う様になったわけです。
気づいて頂けた事は、私にとって過去の至らなさからくる存在の軽さが改まって良かったのですが、社長が支払った代償はあまりにも大きく、私自身もっと信頼され強く取引先に提言できる様な人間になっていればこんな不幸は招かなかったかもしれないうえ、生命保険まで担保にとったのに報われないなんて与信管理者って何なんだろうと思わせるエピソードになったのでした。
ちなみに冒頭で絶えず触れていたアラーム値ですが、後日社長に聞いたところ同業の仲間うち同士で棚卸資産の相殺取引(つまり在庫融通)をしていたそうで、助け合いだし売上も上がるので銀行の評価を良くするためについつい手を出してしまったとの事でした。システムは確かに社長の行動を数字の推移で見抜き危険性を訴えていたのです。
そんな事やってると現金が入ってこないのは当たり前、資金繰が苦しくなってくるのも当たり前でそこに貸倒や社内不正もあったそうで一挙に資金繰りが破綻したとの事でした。銀行はうまく資金不足の埋め合わせ補填に利用されていた感じでありますが、逆に融資を得るために銀行が手を染めさせたという感じもあり、それ以上は今更、中小企業にとって触れてもしょうがない点なのかもしれないけど、実は助けるポイントってまさにこうなる前の段階でいち早く気づいて社長に考えを改めて頂く様に動く事なのだと、それが与信管理の実務における支援というものなのだと、バカな私はその時ようやく悟れた気がしたのでした。
●銀行業も商売だから取引するメリットが無いと相手にしない。担当者との友情や交友関係をあてに過度に依存するのは危険。
●銀行は「雨が降ったら傘は貸さない」と言われる様に、窮地に陥ってから相談するのは危険。
●銀行は世の中の産業を俯瞰しているので、いくらでも世のために優先して貸す相手はいる。自分の事業や会社が優先されていると思込むのは危険。
(おわり)