与信管理の実務は、基本的に取引先の倒産による貸倒れのリスク因子をいち早く見つけ、そしてそれらが小さいうちに排除する事で勝負が決まると考えます。見逃してしまったばっかりに、後々忘れた頃に甚大な被害に繋がってしまったという事は少なくありません。
ところで最近、企業が「詐欺」に引っかかる話をよく耳にする様になり、企業版オレオレ詐欺や地面師、倒産を装った詐欺など数億単位の甚大な被害を被ったという話を聞く様になりました。実は、これらを企てる反社会的存在と関わってしまう事も与信管理にとっては貸倒れを招く大きなリスク因子であり、本来排除しなければならないはずですが、残念な事にまんまと引っ掛かる企業が多くなっていると感じるこの頃なのです。
それは企業が“彼ら”を「見抜く」力、その動きを「洞察」し「距離を置く」力が無くなっているのでは?と思わざるを得ないのですが、以下の話は「反社チェック」という制度が出来たての頃の話でありますが、この様な考え方の人が多くなり詐欺の被害を誘引しているのではないかと思うのです。
ある日、信用調査会社の人から私に「御社の取引先A社の親会社の、そのまた親会社の取締役である人物が反社会的勢力の大物とされる人物の妻であるとの情報を入手した」と、連絡をしてきてくれました。
頂いた詳細情報によれば、その“大物”とされる人物は、企業買収や人材派遣等の普通の商取引に見せかけ水面下でいろんな犯罪行為を繰り返し、当然、警察にマークされているにも拘らず法の抜け穴を巧みに利用し潜り抜けると言われていて、故に経済系反社の“大物”と称されているとの事でした。
ただ驚くのは、インターネット上で極悪非道の噂話があっても伝説の様な感じで実在を示す証拠は全く出てこないし、姓名でGoogle検索しても出てこない。この世に存在しているのかさえ不確かで、その妻と言われる人物は氏名を商業登記で確認できても、確かに「妻なのか?」が、わからない。
私もその情報の段階で社内の各部門に共有しようとしますと、特に実務から遠い人達に限って「実在性が確認できない」とか「憶測で決めつけて取引に距離を置くとかえって損失になる」とかいう返事が返ってきます。でも私の様な古株は「そういう人達と関わってしまったら最後、彼らはその道のプロ。とても恐ろしい事になる、彼らが目の前に現れた時点で×」「どの様な内容であろうとも接触するだけで、自社のイメージが悪くなるので×」「とにかく悟られない様にフェードアウトするのが〇」と教えられたものですが、近年は完璧に法律で守られているという思込みが強いためか「反社チェックに出てこないし」とか、何かにつけ「エビデンスがないと」とかの理由で、距離を置くどころかOK前提に話を進めてしまうケースが多い様に思われます。
「彼らは我々堅気の素人が、決して侮ってはならない存在」と素直に恐れを抱き、先に対処した方が良いのですが、だいたいエビデンスにこだわる人に限って最初はとても強気です。
「何かあったら警察呼べばいいじゃん」(②につづく)